劇的な展開はなく、王の死を淡々と描く
“太陽王”の異名をとり、ヴェルサイユ宮殿の建造者としても知られるフランス国王、ルイ14世。その最後の数週間を追った作品だ。
冒頭から、すでに病に冒され、歩行もままならぬ姿で登場。劇中では、大半を寝室のベッドで過ごす。
そんな彼が、元気さをアピールするためか、被った帽子を脱いで挨拶して見せる。すると側近たちは「お見事です」と拍手。食欲を示そうと卵を口に入れても拍手、ビスケットを噛み砕いても、また拍手。
病気で弱っていても、軽んじる者はおらず、誰もが彼の体調を気遣っているようだ。だが、同時にそれは、王の寝室というステージを好奇の目で眺めているように見えないこともない。
王と側近たちとを隔てる絶妙な距離感が、厳粛であるはずの病床に、微かな滑稽味を醸している。王が心を許せる相手は、枕元でじゃれつく愛犬のみである。
日ごとに衰弱し、食べ物も喉を通らず、やがて水を口に含むことすらできなくなる王。映画は、そんな彼と、彼を囲む側近や医師たちの姿を、時系列に沿って淡々と映し出していく。
突出した出来事は皆無。悲しみも、怒りも、喜びも、驚きもない。ドラマティックな要素のないまま、刻一刻と王は死へと近づいていく。
最後、医師が心臓停止を確かめ、王の死を告げる。ただちに解剖を行った医師が、病変した内臓を見ながら口にするセリフが振るっている。「次は、もっと慎重に診察しよう」。
ルイ14世に扮するのは、ジャン=ピエール・レオ。言わずと知れたヌーヴェルヴァーグの申し子だ。トリュフォーやゴダールの作品での印象があまりに強く、何に出演しても過去作品の呪縛から逃れられずにきた。
だが、老いと病に蝕まれたルイ14世という役を得て、ようやく自らの神話から解放されたように思う。すさまじいまでのメイクの魔術も相俟って、唯一無二のルイ14世像を造型し得ている。名演である。
監督は、本作で日本初登場となるアルベルト・セラ。資料によると、ファスビンダーを敬愛し、彼のミューズだったイングリット・カーフェンとも縁があるらしい。
限定された演劇的空間で、実験動物を観察するように撮った映像からは、確かにファスビンダーの香りが漂ってくるような気がする。
21世紀の前衛と称され、世界的注目を浴びるアルベルト・セラの、長編第4作。2016年ジャン・ヴィゴ賞と、2017年リュミエール賞の男優賞、撮影賞を受賞している。
ルイ14世の死
2016、フランス・ポルトガル・スペイン
監督:アルベルト・セラ
出演:ジャン=ピエール・レオ、パトリック・ダスマサオ、マルク・スジーニ、イレーヌ・シルヴァーニ
公式サイト:http://www.moviola.jp/louis14/
コピーライト:© CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016
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