外国映画

映画レビュー「それから」

2018年6月7日
出版社の新入社員アルムは、出社早々、社長夫人から愛人と勘違いされる。さらに、別れたはずの愛人が現れ、アルムは解雇されてしまう。

不倫愛に溺れる男女、巻き込まれる若い女

男の朝は早い。日が昇る前に起床。そそくさと朝食をすませ、逃げるように出勤していく。

男は妻から浮気を疑われ、あれこれ詰問されている。そんな妻と向き合っている時間は耐え難い。決して多忙ゆえの早朝出勤ではないのだ。

男の名はボンワン。小さな出版社の社長である。愛人だった従業員が退職し、今は一人きり。

そこへ、大学を出たばかりのアルムという女性が新人として入社してくる。ひと目でアルムを気に入ったらしいボンワンは、さっそく昼食に誘い、早くも口説きモードに。

決してハンサムではないが、評論家の顔も持つインテリ中年。ミーハーな女なら簡単に落ちるのかもしれない。

だが、アルムは小説家志望で、少しばかりとんがったところがある。議論を吹っ掛けられたボンワンはたじたじだ。

すらっとした美人。だが、恋愛対象としてはちょっと無理があるかも。ところが、突然、会社に乗り込んできたボンワンの妻は、アルムを見るなり、平手打ち。愛人と勘違いしたのだ。

早くも会社に愛想を尽かし、即日退社を申し出るアルムを、ボンワンは引き止める。と、そこにひょっこり現れたのが、別れたはずの愛人チャンスク。たちまち焼けぼっくいに火が付いた。

一転して邪魔者となったアルムに、ボンワンは退職を持ちかける。

現金な男である。身勝手この上ない。妻や、新入社員の気持ちなどお構いなし。自分の欲望を満たすことしか眼中にない好色な男。

だが、このボンワン、軽薄なプレイボーイというわけではない。チャンスクを本気で愛していたらしいことが、回想シーンで描かれているのだ。

妻やアルムへの態度を見る限り女の敵。だが、愛人との関係は真剣。なので、簡単に断罪するわけにはいかない。

この点は、本作の監督であるホン・サンス自身が、アルム役のキム・ミニと不倫関係にあるという事実が、どうしてもダブってくる。

ともあれ、ホンワンのチャンスクへの気持ちは観客には分かるが、アルムがどこまで見抜いていたかは不明だ。

帰りのタクシーで、闇夜に降りしきる雪を眺めながら、思いにふけるアルムの表情は何を物語っているのか――。

エピローグで、アルムはボンワンと再会する。ウィットの利いたエンディング、そして深い余韻。“コミカル”と“シリアス”を絶妙に配合したホン・サンス独特の世界が、モノクロ映像の中で、至高の輝きを放つ。

映画レビュー「それから」

それから

2017、韓国

監督:ホン・サンス

出演:クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、キム・セビョク、チョ・ユニ、キ・ジュボン、パク・イェジュ、カン・テウ

公式サイト:http://crest-inter.co.jp/sorekara/

コピーライト:© ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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