アメリカ社会の縮図そのもの
日大アメフト部の悪質タックル事件で、にわかに世間の耳目を集めているアメリカンフットボール。日本での人気はまだまだだが、本場アメリカでは、バスケ、野球を大きく引き離し、観戦スポーツの王者に君臨している。
そんなアメフトのスタジアムに、“観察映画”の想田和弘が踏み込んだ。全米最大を誇る、ミシガン大学のアメフト・スタジアム。別名“ザ・ビッグハウス”。
11万人超の観客に沸き返る、このスタジアムの表と裏を、想田を含め17人の映画作家たちが、事前準備なし、シナリオなしで、即興撮影した。
“ザ・ビッグハウス”は、アメフトの強豪ミシガン大学の誇る“ウルヴァリンズ”の本拠地。この日はライバル校との対戦らしく、スタジアムは試合前から熱気を帯びている。
11万人もの群衆。69年に開催されたロックフェス「ウッドストック」を一瞬想起したが、もちろん、中身は全く違う。
米空軍の精鋭がパラシュートでグラウンドに降り立つ。チアリーダー(日本ではチアガール)がお馴染みの笑顔とパフォーマンスで観客席を盛り上げる。
軍楽隊を思わせるマーチングバンド。報道ブースには準備に余念がないジャーナリストたち。
試合はウルヴァリンズが快勝したらしいが、想田たちの関心の対象はそこではない。
黒人父子のチョコレート売りが、出口近くで帰る客を待つ。息子は父親の指示通り客に近づくが、誰も相手にしてくれない。
夥しいゴミを大勢のスタッフが清掃する。彼らの大多数は試合後のミサに参加し、“キリストの血”を飲む。
翌日も試合だ。準備は早朝から始まる。救急班は2人1組で“救急車”に装備し、所定の場所で待機する。
救護ルームでは、太った黒人女性が枕カバーの装着など、黙々と準備を進める。
汚れた食器を洗浄する人々。選手のマウスピースを選手ごとに並べる白人女性。
ミシガン大の卒業生を対象とするパーティでは、ミシガン大の業績、素晴らしさを、OBや学長が誇らしげに語る。
アメフトを楽しむ、もてなす、準備する。すべての場面が、驚くべき一体感に支配されている。逸脱する者はいない。個性、エゴ、自由。そんなものはない。
愛校心、愛国心、宗教心。価値観を共有する人々が、一堂に会し、一枚岩の巨大パワーを生み出す光景は、圧巻の一語。それは、驚異であり、脅威でもある。良くも悪くも、アメリカ社会の縮図がここにある。
ザ・ビッグハウス
2018、アメリカ/日本
監督:想田和弘
公式サイト:http://thebighouse-movie.com/
コピーライト:© 2018 Regents of the University of Michigan
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