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映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

2018年6月8日
映画レビュー「ザ・ビッグハウス」
全米最大のアメフト・スタジアム。17台のカメラがその全貌をとらえた。記録された映像は、現代アメリカの縮図そのものだった。

アメリカ社会の縮図そのもの

日大アメフト部の悪質タックル事件で、にわかに世間の耳目を集めているアメリカンフットボール。日本での人気はまだまだだが、本場アメリカでは、バスケ、野球を大きく引き離し、観戦スポーツの王者に君臨している。

そんなアメフトのスタジアムに、“観察映画”の想田和弘が踏み込んだ。全米最大を誇る、ミシガン大学のアメフト・スタジアム。別名“ザ・ビッグハウス”。

映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

11万人超の観客に沸き返る、このスタジアムの表と裏を、想田を含め17人の映画作家たちが、事前準備なし、シナリオなしで、即興撮影した。

“ザ・ビッグハウス”は、アメフトの強豪ミシガン大学の誇る“ウルヴァリンズ”の本拠地。この日はライバル校との対戦らしく、スタジアムは試合前から熱気を帯びている。

11万人もの群衆。69年に開催されたロックフェス「ウッドストック」を一瞬想起したが、もちろん、中身は全く違う。

映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

米空軍の精鋭がパラシュートでグラウンドに降り立つ。チアリーダー(日本ではチアガール)がお馴染みの笑顔とパフォーマンスで観客席を盛り上げる。

軍楽隊を思わせるマーチングバンド。報道ブースには準備に余念がないジャーナリストたち。

試合はウルヴァリンズが快勝したらしいが、想田たちの関心の対象はそこではない。

映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

黒人父子のチョコレート売りが、出口近くで帰る客を待つ。息子は父親の指示通り客に近づくが、誰も相手にしてくれない。

夥しいゴミを大勢のスタッフが清掃する。彼らの大多数は試合後のミサに参加し、“キリストの血”を飲む。

映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

翌日も試合だ。準備は早朝から始まる。救急班は2人1組で“救急車”に装備し、所定の場所で待機する。

救護ルームでは、太った黒人女性が枕カバーの装着など、黙々と準備を進める。
汚れた食器を洗浄する人々。選手のマウスピースを選手ごとに並べる白人女性。

ミシガン大の卒業生を対象とするパーティでは、ミシガン大の業績、素晴らしさを、OBや学長が誇らしげに語る。

映画レビュー「ザ・ビッグハウス」

アメフトを楽しむ、もてなす、準備する。すべての場面が、驚くべき一体感に支配されている。逸脱する者はいない。個性、エゴ、自由。そんなものはない。

愛校心、愛国心、宗教心。価値観を共有する人々が、一堂に会し、一枚岩の巨大パワーを生み出す光景は、圧巻の一語。それは、驚異であり、脅威でもある。良くも悪くも、アメリカ社会の縮図がここにある。

ザ・ビッグハウス

2018、アメリカ/日本

監督:想田和弘

公式サイト:http://thebighouse-movie.com/

コピーライト:© 2018 Regents of the University of Michigan

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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