待ち続ける妻、乱れる女心
1944年、ナチス占領下のパリ。作家のマルグリットは、仲間たちとレジスタンス活動に参加していたが、夫のロベールがゲシュタポに連行されてしまう。
夫の消息を求めて、ナチス本部に通うマルグリット。だが、手がかりは得られず、不安な日々が続く。
そんなマルグリットに、ある男が接近してくる。ゲシュタポの手先として働くラビエ。敵側の人間ではあるが、文学好きで、作家であるマルグリットをリスペクトしてもいるようだ。
夫の情報を手に入れたいマルグリットは、ラビエに誘われるまま、密会を続ける。しかし、マルグリットの仲間であり愛人でもあるディオニスは、ラビエに対する不信感を拭えない。ある日、夫はドイツへ移送されたとの情報が飛び込んでくる――。
マルグリットとは、この映画の原作「苦悩」の作者であるマルグリット・デュラス、その人。夫のロベールも、愛人のディオニスも、実在の人物だ。日記をもとにした作品だそうだから、実話が相当部分を占めているに違いない。
“ゲシュタポに連行された夫を待ち続ける妻”。デュラスが脚本を書いた「かくも長き不在」(61)のモチーフでもあったが、本作のほうがはるかにリアルで生々しいのは、実話ベースゆえだろう。
たとえば、ゲシュタポの手先であるラビエとマルグリットとの関係。夫の情報入手のため、やむなく密会を重ねるというのは、建て前に過ぎない。
ブノワ・マジメル演じるラビエに、マルグリットは心惹かれていく。ラビエの電話を受けたマルグリットが、鏡に向かって入念に化粧する姿の、何と色っぽいことか。
そもそも、夫がありながら仲間のディオニスと情を通じてしまう、奔放な女性。ただひたすら夫を待ち続ける健気な妻、などではないのだ。実のところ、マルグリットは、心底から夫の帰還を望んでいるのかどうか。
だが、そんな不実な自分を、マルグリットは肯定しているわけではない。夫を裏切る自分の姿を、批判的に眺める、もう一人の自分がいる。
映画は、二つに引き裂かれたマルグリットを、一つの画面内で同時に映し出す。終盤、夫が帰還するクライマックスの場面でも、“夢想されたマルグリット”と、“現実のマルグリット”が、同じ画面に登場し、観客の心までかき乱す。
単純に割り切れない女心の真実を、効果的な映像表現で描き出した、エマニュエル・フィンケル監督の才気が光る一作だ。マルグリット役メラニー・ティエリーも好演。
『あなたはまだ帰ってこない』(2017、フランス=ベルギー=スイス)
監督: エマニュエル・フィンケル
出演:メラニー・ティエリー、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、グレゴワール・ルプランス=ランゲ、エマニュエル・ブルデュー
2019年2月22日(金)より、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー。
公式サイト:http://hark3.com/anatawamada/
コピーライト:©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS
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