日本映画

映画レビュー「愛がなんだ」

2019年4月18日
冷たくされても、愛してくれなくても、かまわない。ダメ男に惚れたヒロインは、片思いの道をまっしぐらに突き進む。

片思いの道をまっしぐら

友人の結婚式で知り合った山田テルコ(岸井ゆきの)と田中マモル(成田凌)。当初は「テルちゃん」、「マモちゃん」と恋人ふうに呼び合っていたが、いつのまにか、マモルはテルコを「山田さん」と苗字で呼ぶようになっている。

関係は一方的だ。マモルから呼び出されれば、テルコはいつでも直ちに馳せ参じる。お呼びがかかるのは、たいてい金曜の夜。なので、仕事もないのに残業し、携帯の鳴るのを待つ。

マモルの要求が満たされれば、即座に用済み。有無を言わさず、追い出される。単なるセフレでもないし、飯炊き女でもないが、“都合のよい女”であることは確かだ。

そんなテルコに、親友の葉子(深川麻衣)は「そんな男、やめちゃえば」と助言する。しかし、その葉子自身も、実は年下のナカハラ(若葉竜也)を顎で使っている身勝手女なのだ。ナカハラは葉子にとって“都合のよい男”。要するに、テルコとマモルのペアは、ナカハラと葉子のペアと相似形を成している。

ただし、ナカハラが自身の立場を冷静に分析しているのに対し、テルコはそうではない。マモルとの力関係などテルコは考えたこともない。ただただマモルを愛することができれば、それでいい。見返りがなくても平気なのだ。

それにしても、片思いをこれほどポジティブに描いた映画があったろうか。テルコには、弄ばれる女の悲哀がカケラもないのである。

前半はテルコの一心不乱な行動をぐいぐいと見せつける。観客によっては開いた口が塞がらないのではないか。

ところが中盤、いったんテルコのもとを去ったマモルの憧れの女性として塚越すみれ(江口のりこ)が登場することで、やや空気が変わる。

何と、マモルとすみれとの関係が、ナカハラと葉子と同様、テルコとマモルとの関係と相似形を成しているのだ。

ナカハラが葉子に振り回されていることを知ったすみれは、葉子を激しく非難。ナカハラがそれに反論する。がさつで無遠慮なすみれは、テルコに対しても、「田中(マモル)のどこが好きなの? 私はああいうのダメ」と一刀両断。ここから、映画はにわかに恋愛論の色彩を帯び始める。

テルコは葉子をあきらめたナカハラを皮切りに、葉子、マモルと、それぞれ一対一で対峙し、自身の恋愛観をぶつけていく。遠慮のない言葉を投げつけ、相手を傷つけたり、トリッキーな会話で相手を翻弄したり。

前半では描かれなかった、一筋縄ではいかない、したたかなテルコの一面が顔を見せ出す。実は、テルコ、振り回されているだけの女ではなかったのかも。“都合のよい女”ではなかったのかも。

あえて結論を出さず、リベンジの可能性すら匂わせたエンディングに、改めて恋愛の不可思議を想う。

角田光代の同名小説を、恋愛映画の名手、今泉力哉が映画化。岸井ゆきの演じるエキセントリックなヒロインを、共感できるキャラクターとして造型し、見る者を不条理な恋の世界へと誘うことに成功している。

愛がなんだ

2019、日本

監督:今泉力哉

出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ、筒井真理子、片岡礼子

公開情報: 2019年4月19日 金曜日 より、テアトル新宿他 全国ロードショー

公式サイト:http://aigananda.com/

コピーライト:© 2019映画『愛がなんだ』製作委員会

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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