外国映画

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

2019年5月31日
映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」
少年は知ってしまう。誰にも言えない、母と父の秘密を。子供は無邪気で単純。そう高を括っている大人に、痛烈な一撃を与える作品。

少年の忘れ得ぬ夏

おそらく母と息子なのだろう。並んで道を歩いていく。整った服装である。どこに行くのだろう。踏切を渡る。少年だけが途中で立ち止まった。母が振り返る。列車が迫ってくる。

轢かれる! 目を見開き、叫ぶ母。これがオープニング・シーン。不吉な幕開けである。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

ここから、時間は遡る。一転して、明るく、清々しいムードが画面いっぱいにあふれる。

ポーランドの田舎町。1970年代末の夏。少年と母は自転車をこぎ、森を抜けて、誰もいない池へ。水泳を楽しんだ二人は、岸辺で仰向けに並んで寝そべる。

カメラはそんな二人の姿を俯瞰ショットでとらえる。夏の日の、幸せそうな母と息子のツーショット。しかし、至福の時間は続かない。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

母の様子が急に変わったのだ。異様なまでに上機嫌なのである。だが、その機嫌よさには、背徳の影が漂う。夜な夜な、厚く化粧し、着飾って外出する母。

父は出稼ぎに出ている。夫の長期不在。その淋しさを紛らわすための不倫。母のまとう淫靡なムードが、12歳の少年を苛む。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

楽しいはずの夏休み。なのに、母は昼も夜も留守がち。しかも、そこには後ろ暗い秘密がある。少年にとって、家庭は決して居心地のよい場所ではなくなっている。孤独な空間。

孤独は外でも変わらない。仲よしの友人は親戚の家に出かけてしまった。地元の不良グループと付き合い、都会から遊びに来た少女と知り合うが、長続きせず、すぐにまた、ひとりぼっち。

やがて、父が帰宅する。母の異変に気付いているのか、いないのか。実は、秘密を抱えているのは、母だけではないのだった――。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

父の帰宅後、親子三人で遊園地に出かけ、回転ブランコに興ずるシーンの、ファンタスティックな映像が、目に焼き付いて離れない。

また、母と通った池へと少女を誘い、サイクリングし、泳いで、仰向けに寝そべるツーショットまで、母のときと全く同じように、うたかたの幸せを堪能するシーンも忘れ難い。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

それは、少年が夏休みに経験した、たった二つの幸福だったかもしれない。やがて、夏は終わる。小さな胸にしまい込まれた、少年の鬱屈した思い。その中身を、もちろん母は知る由もないのだ。

子供は無邪気で単純。そう高を括っている大人に、本作は痛烈な一撃を与えるに違いない。複雑で傷つきやすい少年の心理を、夏のきらめく陽光の中で、鮮烈に描き出した傑作。

映画レビュー「メモリーズ・オブ・サマー」

メモリーズ・オブ・サマー

2016、ポーランド

監督:アダム・グジンスキ

出演:マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ

公開情報: 2019年6月1日 土曜日 より、YEBISU GARDEN CINEMA他 全国ロードショー

公式サイト:http://memories-of-summer-movie.jp/

コピーライト:© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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