外国映画

映画レビュー「サマーフィーリング」

2019年7月5日
恋人を亡くしたロレンスは、ベルリン、パリ、ニューヨークで、三度の夏を過ごす。明るい陽光の下で展開する、喪失と再生の物語。

喪失感を抱えて過ごす三度の夏

ベルリン、夏。ロレンスの隣で目覚めたサシャは、食事をし、シャワーを浴びると、勤め先のアートセンターへと向かう。

青い空。降り注ぐ陽光。いつもと変わらぬ一日のはずだった。ところが、勤務を終えて帰宅する途中、公園で倒れたサシャは、運ばれた病院で帰らぬ人となってしまう。

フランスからはサシャの両親や妹のゾエ、ニューヨークからはロレンスの女友だちのジューンが駆けつける。彼らと交わることでしばし癒されるロレンスだが、悲しみからは立ち直れそうにない。

翌年の夏、ロレンスはパリを訪れる。一年ぶりに再会したゾエは、小さなホテルで働きながら、息子と暮らしている。二人はサシャの思い出を心の奥深くに抱えながら、互いの近況について語り合う。

さらに一年後の夏。ロレンスは故郷のニューヨークへと戻る。姉の店で働くイーダと知り合い、親しくなるが、パリからゾエもやってきて――。

ベルリン、パリ、ニューヨークと、夏ごとに都市を移動しながら、ロレンスは愛する女性の死という悲痛な体験から立ち直るべく、少しずつ、前へと進んでいく。

“再生”への鍵となるのは、女性の存在だ。ベルリンでは、ロレンスをサイクリングに誘い、自分の愛猫を預けていくジューン、そしてサシャの面影が重なるゾエが、ロレンスの心に何事かを投げかけるように見える。

パリでは、再会したゾエが夫と別居中ということもあり、ロレンスとの距離は急速に縮まるように思われる。

そしてニューヨーク。ロレンスの新たな人生を開く女性は果たして――。

ベルリン、パリ、ニューヨーク。それぞれの都市風景がいずれも鮮やかに切り取られているのは、パリとロンドンを魅力的に描いた「アマンダと僕」(2018)と同様だ。

さらに、パリのパートでは、ゾエが両親の住むアヌシー湖畔でバカンスを過ごす場面があり、この風景がまた息を呑むほど美しい。

エリック・ロメール後期の作品群を思わせる映像。しかし、ミカエル・アース監督は、ロメールのそぎ落としたセンティメンタリズムを、濃厚なまでに漂わせる。

ロメールの眼差しは、いわば他人事の視線。距離をとって眺めるがゆえのユーモアとウィットが身上だ。

対して、アースは共感と感情移入の視線。明るく爽やかな映像に、深い哀しみと愁いを含ませている。それは、アース作品ならではのスタイルであり、個性と言える。

フランスから生まれた、才能あふれる映画作家、ミカエル・アース。今後の活躍から目が離せない。

サマーフィーリング

2015、フランス/ドイツ

監督:カエル・アース

出演:アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジュディット・シュムラ、マリー・リヴィエール、フェオドール・アトキーヌ、マック・デマルコ、ドゥニア・シショフ、ステファニー・デール

公開情報: 2019年7月6日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:https://summerfeeling.net-broadway.com/

コピーライト:© Nord-Ouest Films – Arte France Cinéma – Katuh Studio – Rhône-Alpes Cinéma

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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