変貌する中国、翻弄される人々
※新作「帰れない二人」が公開中のジャ・ジャンクー監督作品「長江哀歌」(2006)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。
孫文が構想して以来、幾度となく計画されながら、戦争や文革、反対運動などにより頓挫してきた長江の三峡ダム建設。万里の長城以来の一大国家事業といわれるこの巨大ダム建設は、ようやく93年に着工へとこぎつけた。
2008年に北京オリンピックを控える中国にとっては、国運を賭けたプロジェクトである。しかし、ダムの建設は、中国を代表する名勝である三峡の景観を破壊し、歴史ある古都・奉節を水底に沈めてしまう。
本作は、はるばる山西省からこの沈み行く古都へと、別れた妻子に再会するためやってきた男と、同じく山西省から音信不通の夫を探しにやってきた女が、それぞれ新たな人生を踏み出すまでを描いた作品である。
時代のうねりに身を任せながらも、運命をしっかり受け止め、敢然と生きる2人。その小さな姿が三峡の壮大な風景に対置される。
本作はこの二人の行動や心の動きに焦点が当てられてはいるが、一方で、彼らの周囲や背景に映し出される人物や風景にも注目が必要だ。
たとえば、「知的財産権」という脅し文句で“ぼったくり”をする若者。黙々と電子ゲームに興じる京劇役者。MICKEYではなくMICREYと印刷されたミッキーマウスのTシャツを着た少女。巨大な橋を合図一つでライトアップさせ自慢する成金風の男。
一切の説明を省き、ただ描写のみによって、さりげなく“現代中国”を語ってしまうジャ・ジャンクー監督の演出は見事である。
2006年ベネチア国際映画祭金獅子賞グランプリ受賞。受賞は全会一致で、しかも即座に決まったというが、それも当然だろう。
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