「私も変態なの」「僕は変態じゃない」
とある地方都市に住む中学生、春日高男。ボードレールの詩集「惡の華」に心酔する、文学少年である。ガキっぽい同級生を見下し、誰からも理解されない自分にちょっと酔いしれている。
しかし、そんな春日も所詮は思春期の男の子。ブルマー姿の女子を見ればオスの血が騒ぐ。ある日の放課後、誰もいない教室で、密かに憧れていた佐伯奈々子の体操着を盗んでしまう。
すぐに返すつもりだった。だが、そうはいかない事態が起こる。クラス一の変わり者である仲村佐和に、一部始終を目撃されていたのだ。
「ばらされたくないなら、契約を結ぼう」。オファーをのむしかない春日は、彼女の下す命令に渋々従っていくのだが――。
下着泥棒の件は発覚しなかった。しかも、幸運なことに、ひょんなことから春日は佐伯と交際することになった。だが、デート先にはひょっこり仲村が現れ、「キスしろ」などと無茶な指令を出すのだ。
春日は何とか欲望を抑え、佐伯とプラトニックな恋愛をしようと努める。だが、仲村は容赦なく春日の変態性を暴く。
そして、自らも変態であることを告白するのである。「体の、下のほうの、中のほうが、もう、ずーっとモヤモヤしてる」。
破天荒な仲村に振り回されるうちに、春日は知らず知らず彼女の虜になっていく。好きなのは佐伯のはずだった。ブルマーの匂いを嗅いで興奮もした。
だが、仲村に支配され、自分の変態性を暴かれていくにつれ、同じ変態の世界の住人である仲村に、心が傾いていくのである。
佐伯とのノーマルな純愛を志向しつつも、仲村の挑発によって、心の奥に潜む“ぐっちょぐちょの”欲望がかき出され、ぐいぐいと仲村の世界へと引き込まれていく春日。彼女へのいわば同族愛的な気持ちは、ほどなく恋愛感情へと発展する。
仲村に春日を奪われる形になった佐伯は、動転しつつも、必死で春日の奪還を試みる。クラス一の優等生が、捨て身で男を獲りに行く。しかし、もはや、何をしようと、春日は返ってこない。春日の思いは、仲村と“向こう側”の世界に行くことだけなのだ。
すさまじい衝動と、過激な行動は、やがて破滅的な結末を招く。春日と仲村は、とてつもない傷を負うことになる。そして、物語は一気に3年後へと飛ぶ。思春期という嵐の季節を通り過ぎて、春日と仲村は、それぞれどんな人生を歩んでいるか――。
押見修造の伝説的コミックを、「ヌイグルマーZ」(2014)、「ゴーストスクワッド」(2018)などで、カルト的な人気を誇る井口昇監督が映画化。膨張する観念と、ほとばしる欲望をコントロールできず、軌道を外れていく少年少女のパッションと狂気を、鮮烈な映像で描き出した。
ブルマーという定番アイテムを導入部に、男子中学生のエロ話を、いつのまにか思春期の男女の愛の物語へと昇華させていく、井口監督のストーリーテリングもさすがである。
また、仕掛け人にして、ストーカー、そして恋とセックスに焦がれる女でもあるヒロイン役に扮した玉城ティナは、まさに出色の演技。思春期の危うい感情と行動を、完璧に表現して見せてくれた。
『惡の華』(2019、日本)
監督:井口昇
出演:伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨、飯豊まりえ
2019年9月27日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー。
コピーライト:©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
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