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第20回東京フィルメックス オリヴィエ・アサイヤス、ホウ・シャオシェンを語る

2019年12月9日
アサイヤス監督「HHH:侯孝賢」と、ホウ監督「フラワーズ・オブ・シャンハイ」。上映後Q&Aにはアサイヤス監督が登壇した。

私でなければ撮れなかった映画

フランスのテレビシリーズ「われらの時代の映画」の1本として製作された「HHH:侯孝賢」。アサイヤス監督が「フラワーズ・オブ・シャンハイ」(98)の脚本を執筆中のホウ監督に密着し、同監督の素顔に迫っていく作品だ。「フィルメックス・クラシック」部門の特別招待作品として上映された。

上映後のQ&Aにはアサイヤス監督が登壇。まず、ホウ監督との出会いの経緯を尋ねられると、「初めて会ったのは1984年。当時『カイエ・デュ・シネマ』で映画批評を書いていた私は、取材で香港を訪れていた。そのとき、『チャイナ・タイムズ』の映画批評家だったチェン・グオフーから、台湾映画を見るべきだと勧められたんだ」と話し始めた。

「そこで台北に渡った私は、いわゆる台湾ニューウェーヴの作家たちを知り、大きな衝撃を受けた。ホウ・シャオシェンは『風櫃の少年』を撮っていたし、もう一人の重要な作家であるエドワード・ヤンは『海辺の一日』を撮っていた。ホウ・シャオシェンの初期作品を見た私は、彼が世界の巨匠になることを確信した。彼と私の友情はそのときに始まった。その2年後、私は映画監督になるのだが、彼にはとても影響を受けた」

本作を撮るにあたっては、「シネフィル的な視点は避けた」と言う。「ホウ・シャオシェンの作品を紹介したり、テーマを分析したりするのではなく、一人のアーティストのポートレートを撮りたかった。それは、制作当時すでに13年の交友があった私にしかできないことだったろう。ラストのカラオケの場面もそうだが、私たちの友情関係があればこそ実現できた作品だと思う」

ホウ・シャオシェン以外に、撮りたかった作家はいるかという問いには、「エドワード・ヤン」と回答。「本作にも出演してほしかったが、断られた。当時、ホウ・シャオシェンとエドワード・ヤンとは気まずい関係にあった。エドワードとしては、私がホウ・シャオシェンではなく自分を撮るべきだと思っていたのかもしれない」と語り、改めてエドワード・ヤンの早世を惜しんだ。

時代の再現に心血を注いでいた

アサイヤス監督は、「HHH:侯孝賢」に続いて上映されたホウ・シャオシェン監督「フラワーズ・オブ・シャンハイ」のQ&Aにも登場。

同作について、「間違いなくホウ・シャオシェン作品の代表的な一本。再見できてうれしい。いま見ても少しも古びていない。人間の感情も普遍的に描かれている」と絶賛した。

「フラワーズ・オブ・シャンハイ」は、ホウ・シャオシェンにとって初の歴史劇。アサイヤス監督は、「歴史ものの制作は、衣装や小道具、人物の佇まいなど、すべて忠実に再現しなければならないところが難しい」と語ったうえで、「歴史劇を成功させた最大の巨匠はルキノ・ヴィスコンティ。高い志を持ち、ディテールに神経を配った。ホウ・シャオシェンにも、同様な志の高さが伺える」と歴史劇としての同作を高く評価した。

同作のプロデュースを手がけた本映画祭の市山尚三ディレクターも、ホウ・シャオシェンが時代を再現することに心血を注いでいたことを証言。

「セリフが上海語のため、上海近くの出身であるカリーナ・ラウや、母親が上海出身のミシェル・リー、両親が上海からの移民であるカオ・ジエなど、ある程度上海語が分かる俳優を集めていた。困ったのはトニー・レオン。彼は広東語しか喋れない。上海語に挑戦したが、モノにできず音を上げた。そこでホウ監督はトニー・レオンを広州から来た役人という設定にした(笑)」。

「標準語でやればいいのではと言ったら、上海の話なんだから上海語じゃなきゃダメなんだと怒られた(笑)。ホウ監督自身も上海語は分からないのに(笑)、上海語を貫いた」。

市山ディレクターから、ホウ監督に訊いてみたいことはあるかと問われたアサイヤス監督。

「独特のリズムはワンシーン・ワンカットの長回し撮影によるものだと思う。そこで、思ったのは溝口健二。溝口にも遊女を描いた作品があるし、本作も溝口作品に影響を受けているのか訊いてみたい。それからもう一つ、映画の中の時の流れは、夢の中に埋没していくような感覚があって、それはアヘンの影響だと思う。時が経過していく中で人々の苦痛を少し和らげるようにアヘンが作用していたのではないか。この点も訊いてみたい」。

市山ディレクターは、「最初の質問に関連して、僕の知る限りの話をすると、ホウ監督は大学の授業で学生たちと一緒に『雨月物語』を見たことがあるくらいで、他の溝口作品は見ていないとのことだった(笑)。本作を撮る前に見ておいたほうがいいと『祇園の姉妹』のビデオを渡したのだが、その後、その映画についての感想はなかった」と秘話を披露。

「全くスタイルの違う小津の話はよくするのだが、溝口にふれることはなかった。たぶんライバル視していたのではないか(笑)。実際は溝口の映画は見ていたと思う。アヘンについてのアサイヤス監督の指摘は当たっていると思う」。

HHH:侯孝賢

1997、フランス/台湾)

監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ホウ・シャオシェン、チュウ・ティエンウェン、ウー・ニェンチェン、チェン・グオフー、ドゥ・ドゥージ、カオ・ジエ、リン・チャン

フラワーズ・オブ・シャンハイ

1998、台湾

監督:ホウ・シャオシェン
出演:トニー・レオン、羽田美智子、ミシェル・リー、カリーナ・ラウ、カオ・ジエ、レベッカ・パン、ウェイ・シャホェイ

公式サイト:https://filmex.jp/2019/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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