ウィットに富んだセリフが炸裂
第二次世界大戦後、ドイツでヒトラーという姓は忌避され、改名した人も多いと言う。だが、タブーは名前の“アドルフ”にまで及んでいたのだった!
映画の舞台は旧西ドイツの首都だったボン。ベートーヴェンの生誕地としても知られるこの街の、閑静な住宅街に居を構えるのが、大学教授・シュテファンと学校教師・エリザベト夫妻だ。
この日は、エリザベトの親友で音楽家のレネと、エリザベトの弟トーマス、そしてトーマスの恋人で妊娠中のアンナという、気の置けないメンバーを招待し、ディナーを楽しむ予定だった。
ところが、トーマスの放った一言が、一同を震撼させる。生まれてくる子にアドルフと命名したというのだ。
「正気か!」。アドルフすなわちヒトラー。インテリ教授のシュテファンは、子供に極悪な独裁者の名を付けるというトーマスに激怒する。
「法律で禁止されているはず!」といささか勇み足で猛反対するシュテファンに、トーマスは「あえてアドルフと名付けてヒトラー神話を破壊するんだ」と反論。
食事中もシュテファンとトーマスとの激論は続く。怒りが収まらないシュテファンは、遅れて到着したアンナに、いきなり「君の腹では総統が育っているそうだな」と毒づくが、逆に自分の子供たちの名前を揶揄され、シュテファンはますますヒートアップ。
この後、アドルフ問題はあっけなく決着するものの、シュテファンの子供たちの名前をきっかけに、今度は人格攻撃が始まる。
トーマスとシュテファンとの猛烈な罵り合いに、エリザベトやアンナも援護射撃。やがて、おとなしくしていたレネにまで火の粉が飛ぶ。そして、暴露される驚きの事実――。
アドルフ問題がなぜ決着するかは、この映画の最大の秘密だから、ここでは言えない。それにしても、悪意、偏見、不満を吐き出し、人格否定までしながら、彼らの関係が破綻しないのは何故だろう。
たぶん、彼らには憎悪=ヘイトの感情がないからだ。激しく口論しても、ガスが抜ければ、すっきり、さっぱり。良識ある大人の関係なのだ。ネオナチの台頭を防ぐには、彼らのような大人が大勢を占めることが必要なのだと思う。
ヨーロッパで大ヒットした舞台劇の映画化である。ウィットに富んだセリフが間断なく炸裂。ニヤリとさせられるラストまで、サスペンスと笑いが切れない。舞台監督としても活躍するゼーンケ・ヴォルトマン監督の面目躍如たる作品だ。
お名前はアドルフ?
2018、ドイツ
監督:ゼーンケ・ヴォルトマン
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、クリストフ=マリア・ヘルプスト、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、カロリーネ・ペータース
公開情報: 2020年6月6日 土曜日 より、シネスイッチ銀座他 全国ロードショー
公式サイト:https://www.cetera.co.jp/adolf/
コピーライト:© 2018 Constantin Film Produktion GmbH
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