日本映画

映画レビュー「喜劇 愛妻物語」

2020年9月10日
売れない脚本家の豪太と、鬼嫁チカ。仕事もせずセックスを求める豪太に、チカの怒りが炸裂する。リアルで笑える夫婦コメディ。

ダメ夫と鬼嫁の珍道中

豪太は映画の脚本家である。妻のチカとは、大学時代にサークルで知り合い、10年前に結婚した。

映研ではスター的存在だった豪太だが、今はほとんど仕事がなく、年収は50万。5歳の娘アキを含めた家族3人の生活は、ほぼチカのパート収入でまかなわれている。

才能はあるのだが、なかなか認められない――というのなら、仕方ない。運が開くまで辛抱強く書き続けるまでだ。

しかし、豪太の場合はちょっと違う。暇さえあればエロビデオにうつつを抜かし、3カ月ご無沙汰のチカとセックスすることばかり考えている。創作欲より性欲が勝る、情けない男なのだ。

そんな豪太に対し、チカは容赦なく罵詈雑言を吐きつける。バカ、クソ野郎、タコ、雑魚、死ね、殺す、エトセトラ…。

立場の弱い豪太は、言い返すこともできず、ただただ、卑屈に機嫌をとるだけ。チカの態度が少しでも軟化しようものなら、セックスのチャンスとばかり、マッサージやら何やらのサービスに励む。

もはや通常の倦怠期カップルを超越した、ダメ夫と鬼嫁。そんな二人が、娘のアキを伴い、四国へと旅に出る。

脚本を書くための取材である。チカに同行を求めたのは、免許のない自分の代わりに現地で車の運転をしてもらうためだが、もちろんセックスへの期待もある。いや、むしろ、そちらがメインか。

旅の主導権を握るチカと、彼女に付き従う形の豪太。事あるごとにチカの逆鱗にふれてしまう豪太が、これでもか、これでもかと、罵倒されていく。

しかし、ときに融和の瞬間が訪れないわけでもなく、この夫婦関係、果たして好転するのか破綻するのか――。

罵られても罵られてもへこたれず、子犬のように妻にすり寄るダメ夫を、濱田岳。言葉の限りを尽くして夫を責め倒す鬼嫁を、水川あさみ。ともにはまり役である。

とりわけ、数々の罵倒語を、スラスラと淀みなく、畳みかけるように吐き出す水川の“口撃”っぷりには、思わず惚れ惚れしてしまう。

水川の強烈なツッコミあってこそ、姑息で小狡い濱田のキャラも生きてくる。見事な化学反応だ。

また、衝突する二人の緩衝材的な役割を果たすアキを演じた名子役、新津ちせの働きも大きい。ボケとツッコミの夫婦漫才に、もう一人割って入り、トリオ漫才のような形を生み出している。

ほかに、あふれるフェロモンで豪太を誘惑する吾妻さんに、大久保佳代子。四国で暮らす同級生の由美に、夏帆。それぞれ持ち味を発揮し、物語に厚みを加えている。

監督は、「百円の恋」(2014)で日本アカデミー賞脚本賞最優秀賞を受賞した足立紳。今回は、自伝的小説を脚本化し、自らメガホンを取った。

リアルなセリフ、キャラの描き分け、テンポよい展開。本作も作劇術が際立っており、2019年の東京国際映画祭では最優秀脚本賞に輝いている。

喜劇 愛妻物語

2019、日本

監督:足立紳

出演:濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、夏帆、ふせえり、光石研、大久保佳代子

公開情報: 2020年9月11日 金曜日 より、 全国ロードショー

公式サイト:http://kigeki-aisai.jp/

コピーライト:© 2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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