日本映画

映画レビュー「BOLT」

2020年12月10日
3.11をテーマとした、林海象監督の新作。スリル、リアリズム、ポエジー。多彩なスタイルで描かれる鎮魂歌に胸を打たれる。

ボルトの緩みが男の運命を変える

「BOLT、「LIFE」、「GOOD YEAR」という3つの短編から成る作品。すべて同一人物と思われる主人公を永瀬正敏が演じているが、作中での名前は明かされない。

「BOLT」は、大地震の発生から始まる。振動で原発内の配管はボルトが緩み、冷却水が噴き出す。速やかに漏出を止めないと、汚染水が外部に排出されてしまう。

作業員たちがスパナを持って現場に向かう。防護服を着ているとはいえ、高い線量に耐えられる時間はわずか。制限時間をオーバーしながら、主人公の男が“ボルト締め”に成功するが――。

東日本大震災と福島原発事故をモデルに、極限状況で戦う男たちの姿をサスペンスあふれるタッチで描いた作品だ。

現代美術作家のヤノベケンジが手がけた原発内部のセットに目を見張る。リアルであると同時にSF映画のようでもある。死と隣り合わせの緊張と恐怖が、臨場感をもって伝わってくる。

続く「LIFE」で、主人公の男は遺品回収業者として登場する。避難指定地区で孤独死した老人の家を、もう一人の男とコンビを組んで清掃し、遺品を整理するのが彼の仕事だ。

夥しい数のゴミ袋。アルバムや日記。新聞の切り抜き。そしてゴキブリの群れ。これが3.11の真実だと言わんばかりの、すさまじいリアリズムに言葉を失う。

「GOOD YEAR」の舞台は、ずばり“GOOD YEAR”というネオン看板が輝く自動車修理工場。主人公の男が一人で働く仕事場だ。

クリスマスの夜、工場の前で赤いスポーツカーが急停止し、運転していた女は気を失う。

男が寝かせたソファで意識を取り戻した女は、北海道に帰郷するところだと言う。女は男に名前を訊くが、「もう会わないから」と男は答えない。「私の名前はアヴェ・マリア、忘れないで」。そう言い残して、女は走り去る。

現実なのか、夢なのか。謎の女と雪景色が、切なくも甘い情感をかき立てる、メルヘンのような一編だ。

3.11の悲劇から触発されて生まれたのであろう3つのエピソードは、それぞれ異なるスタイルで描いた死者への鎮魂歌。いずれも鮮烈な映像の力に圧倒される。林海象監督7年ぶりの新作だが、待ち望んだ映画ファンの期待を裏切らない、見応え十分な作品だ。

今回の公開にあたっては、伝説のデビュー作「夢みるように眠りたい」(写真上)も、デジタルリマスター版が同時期に上映される。戦前の東京を舞台にした映画愛にあふれる名作。二作品を見比べ、林海象の原点と現在点を確認してみるのもいい。

BOLT

2019、日本

監督:林海象

出演:永瀬正敏、佐野史郎、大西信満、月船さらら

2020 年12月11 日(金)よりテアトル新宿、19日(土)よりユーロスペース他全国ロードショー。

公式サイト:http://g-film.net/bolt/

コピーライト:© レスパスビジョン / ドリームキッド / 海象プロダクション


夢みるように眠りたい

2020デジタルリマスター/1986初版、日本

監督:林海象

出演:佳村萌、佐野史郎、大竹浩二、大泉滉、あがた森魚

2020 年12月12月19日(土)より、ユーロスペース他全国ロードショー。

公式サイト:http://g-film.net/dream/

コピーライト:© 映像探偵社

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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