日本映画

映画レビュー「すばらしき世界」

2021年2月10日
元殺人犯の三上は、短気で曲がったことが大嫌い。トラブルを起こしながらも、社会復帰めざして、悪戦苦闘を重ねるが――。

元殺人犯が人生をやり直す

任侠映画を見てスカッとするのは、卑怯で狡猾な悪人に問答無用の鉄槌を下すヤクザの姿が、溜まりに溜まったった日頃のうっぷんを晴らしてくれるからだろう。

本作の主人公である三上は、そんなヤクザの典型とも言えるような人物だ。江戸時代であったなら、きっとヒーローになり得たに違いない、男気あふれる人物。

殺人罪で服役したのだが、被害者は殺されても仕方ないような外道の輩。だから、三上は犯した罪を今も悔いてはいない。

久々に娑婆(しゃば)へと出てきた三上にとって、一番の願いは、幼い頃に生き別れとなった母親との再会だ。家庭に恵まれず、非行に走り、暴力団の道に踏み込んだ。ヤクザの王道を歩んだ男である。

身元引受人の弁護士夫妻にすき焼きをふるまわれれば、感激して涙を流す。サラリーマンに絡んでいるチンピラを見れば、激昂し半殺しの目に遭わせてしまう。

情にもろく、短気で、曲がったことが大嫌い。喜怒哀楽が激しく、直情径行。更生に努めるも、この性格が災いし、なかなか社会に馴染めない。

そんな三上に目を付けるのが、TVプロデューサーの吉澤と、テレビマンの津乃田である。前科者が改心し、社会に溶け込み、母親と再会するという、感動ドキュメンタリーを仕立てようという肚(はら)だ。

おそるおそる三上に接近する津乃田。だが、面会を重ねるごとに、三上の人の好さに触れ、しだいにその人間性に魅かれていく――。

義侠心あふれる三上は、社会の不条理や不正義を見逃すことができない。三上が怒りを爆発させ、暴力をふるうのは、過剰なまでの正義感が引き起こす、いわばアレルギー反応なのだ。

介護施設に職を得た三上が、同僚の許しがたい行為を目撃し、忍耐が切れそうになるのをじっと堪える場面に胸が突かれる。

世の不正や悪徳を見て見ぬふりをしながら、怒りを抑え、声を上げず、“賢く”生きること。それは、三上にとって拷問のような苦しみであるに違いない。

そんな苦痛に耐えてまで生きることに、果たして価値があるのか。そんな生き方を強いる社会は、“すばらしき世界”と言えるのか。見る者一人ひとりに、それぞれの生き方について見直しを迫る作品だ。

佐木隆三の「身分帳」を「ディア・ドクター」(2009)「永い言い訳」(2016)の西川美和監督が脚色し、映画化。西川監督にとって初の“原作もの”となった。

『すばらしき世界』(2021、日本)

監督:西川美和

出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美/ 梶芽衣子、橋爪功

2021年2月11日(木・祝)より、全国ロードショー。

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/

コピーライト:©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

配給:ワーナー・ブラザース映画

 

すばらしき世界

2021、日本

監督:西川美和

出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美/ 梶芽衣子、橋爪功

公開情報: 2021年2月11日 木曜日 より、 全国ロードショー

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/

コピーライト:© 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

配給:ワーナー・ブラザース映画

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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