外国映画

映画レビュー「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」

2021年10月7日
悪徳町長から逃れた女を、凶悪犯罪者が追跡。5日で連れ戻さなければ、爆死する運命だ。決死のミッションは完遂できるのか。

園子温×ニコラス・ケイジ

サムライタウンにその名を轟かす凶悪犯罪者、ヒーロー(ニコラス・ケイジ)。相棒のサイコ(ニック・カサヴェテス)とともに銀行を襲うが、いきなりガムボールを差し出してきた少年に動転し、逮捕されてしまう。

フンドシ一丁の屈辱的な姿で投獄されたヒーロー。しかし、ほどなく救いの手が伸びる。釈放してくれたのは、サムライタウンを支配する権力者ガバナー(ビル・モーズリー)だった。いつも側に遊女たちを侍らせ、鼻の下を延ばしている、助平なアメリカ人。

お気に入りの女が逃亡したので、ヒーローに連れ戻させようというわけだ。与えられた時間は5日。期限を過ぎれば、ボディスーツに仕掛けられた爆弾で吹き飛ばされてしまう。命がけのミッションである。

ヒーローは指定されたバーニス(ソフィア・ブテラ)という女を捜し求め、彼女が行方を消したゴーストランドへと向かうが――。

サムライタウンに住んでいるのは、着物姿の町民たちと、洋装の白人たち。江戸時代の日本人と西部開拓時代のアメリカが共存している。時代劇と西部劇を混ぜ合わせたような、異様な世界だ。

しかも、その中には、ガムボールの少年のように、現代の日本人少年もいる。モダンな自働車も走っている。

一方、ゴーストランドでは、人々が奴隷のように働いている。課せられた仕事は時計を止め続けること。時計の針が少しでも動けば、それは世界の破滅を意味するらしい。

時が前に進むことが破滅につながるとは絶望そのものだが、温暖化や原子力に怯えながら生きる現代人にとって、決して荒唐無稽な世界ではない。

その意味では、一種のディストピア映画と言えるだろう。しかし、同時に本作は幕末の開国から今日まで延々と続くアメリカの日本支配を、原爆投下やフクシマの惨事なども暗示しつつ、グロテスクな風刺画として描き出してもいる。100年以上も続く日米関係って何なんだと考えさせる映画でもあるのだ。

脚本はアメリカ側のスタッフが手がけているだけに、ストーリー展開にはややご都合主義を感じる。だが、シナリオに散りばめられた文学的記号を絢爛たる映像に溶け込ませ、詩的アクションとも言うべき世界を構築し得ているのは、さすが園子温と言うべきか。

キレまくり、暴れまくる怪優ニコラス・ケイジと、ガバナーの用心棒を務める剣客ヤスジロウ(TAK∴)との対決をはじめ、活劇的面白さも満点。鬼才・園子温がエンターテイナーとしても一流であることを証明した、堂々たるハリウッドデビュー作である。

映画レビュー「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド

2021、アメリカ

監督:園子温

出演:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴、中屋柚香

公開情報: 2021年10月8日 金曜日 より、TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://bitters.co.jp/POTG/

コピーライト:© 2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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