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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 受賞作「ライバル」、「カウンセラー」

2021年10月13日
監督賞「ライバル」、SKIP シティアワード「カウンセラー」。ともに不穏なムードの中で展開するサスペンス映画の秀作だ。

9月25日(土)から10月3日(日)まで、昨年に続きオンライン配信で開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021。力作がひしめく中、今後の長編映画制作に最も可能性を感じさせる監督に贈られるSKIP シティアワードは、短編として初めて「カウンセラー」が受賞した。

母親を愛した男に嫉妬する少年の心理

「ライバル」は、母親を愛した男に嫉妬する少年の、複雑な心理を緊迫したムードの中に描き出した、サスペンス映画である。

ウクライナで暮らす9歳のロマンは、看護師として働く母親を追ってドイツにやってくる。母親は裕福な夫婦の世話をしていたが、妻は病死し、夫のゲルトと深い関係になっていた。

母親との再会を楽しみにしていたロマンは、母を自分から奪おうとしているゲルトに敵意を抱く。しかし、そんなロマンの気持ちに、母親もゲルトも気づいていないようだ。

愛する母と厭(いと)わしいゲルトとの奇妙な共同生活。しかし、ある日、母親が急病で倒れてから、状況は一変する。

母親の不法労働が発覚しないよう、ゲルトは彼女の財布からIDカードを抜き取り、病院の前に置き去りにする。ロマンとゲルトとの二人きりの日々の始まりだ。

物語は終始ロマンの視点で進む。前半は、ロマンが母親やゲルトを見つめる場面が目立つ。見つめるロマンと、見つめられる母親やゲルト。両者を、1ショット内の焦点移動で見せるレンズワークが、少年の不安や孤独を細やかに写し取っていく。

後半は、母親の退院を辛抱強く待ちながら、ゲルトと共生していく少年の揺れる心理が繊細に描かれる。ゲルトがロマンに持たせるライフル銃や、ゲルトの患う糖尿病は、サスペンスを保つ要素として遺憾なく機能。エンディングの転調も鮮やかである。

不気味なクライエントの生々しい告白

「カウンセラー」は、メンタルクリニックを訪れたクライエントが、心理カウンセラーに悩みを語っていく話だ。

既婚者であるクライエントは、勤務先で宅配便の男と関係を持ったが、妊娠して退社し、関係は途絶えた。しかし、その後、久しぶりに男から電話があり、驚愕の事実を告げられる――。

予約もなしにやってきたクライエントの女性は、生々しい不倫話を、事細かに語っていく。メンタルを病んだ女性らしく、その語り口や表情には、いかにも常軌を逸したものが感じられ、不気味である。

さらに映像は、クライエントと宅配便の男とのセックス場面を、赤裸々に再現していく。情事にふけるオフィスの狭い空間に蛾が飛ぶシーンなど、熱気や湿気まで取り込んだ撮影が素晴らしい。

途中、クライエントとカウンセラーの人格が入れ替わるシーンがあり、イングマール・ベルイマン監督の「仮面/ペルソナ」(66)を思い出した。

サスペンス。ミステリー。エロス。ホラー。わずか42分のフィルムに映画的興奮を充満させた傑作である。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 受賞作「ライバル」、「カウンセラー」

ライバル

2020、ドイツ/ウクライナ

監督:マークス・レンツ
出演:エリツァー・ナザレンコ、マリア・ブルーニ、ウド・ザメル

カウンセラー

2021、日本

監督:酒井善三
出演:鈴木睦海、西山真来、田中陸、松本高士

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp

コピーライト:©Mila Teshaieva(「ライバル」)、©DrunkenBird 2020(「カウンセラー」)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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