衝撃はより生々しく
女が男に暴行を受け、激昂した恋人が男に復讐する――。怒涛の一夜を生々しく描いた映画「アレックス」(2002)。公開時に話題となったのが、9分ワンカットのレイプシーンだ。その、あまりに直截(ちょくせつ)で残酷な描写に、途中退席者が続出したほどだ。
時系列を逆行させた野心的なストーリー展開も注目を集めた。後から起きた出来事を前へ、前に起きた出来事を後へと、順序を逆転させているので、文脈が曖昧となり、その分、観客に誤解や曲解を許した。だが、その難解さこそがギャスパー・ノエ作品の魅力でもあった。
今回、公開されるのは、この逆行した時系列を正したストレートカット版である。オリジナル版では、ベートーヴェン7番シンフォニーをBGMに、ヒロインのアレックス(モニカ・ベルッチ)が穏やかな時間を過ごすラストの意味が不明確だったが、本作ではやがて破壊される幸福な日常を象徴する情景なのだということがはっきり見て取れる。
なぜアレックスが理不尽な暴力の犠牲になったのか。事件は避けようがなかったのか。そんな疑問をいだく余地もなくなっている。
輪郭がくっきりするのだ。ストーリー展開に神経を使わなくてすむ分、映像の細部にも注意が向く。たとえばアレックスの部屋のインテリアから、彼女の趣味やセンスを窺う余裕もできる。
LPジャケットが飾られている。クリームの「カラフル・クリーム」、ローリング・ストーンズの「サタニック・マジェスティーズ」。なるほど、なるほど。
アレックスとパーティに同行する恋人のマルキュス(ヴァンサン・カッセル)と、元カレのピエール(アルベール・デュポンテル)。二人の対照的なキャラクターも予め把握できるからこそ、復讐の皮肉な結末も、的確に見届けることができるのだ。
曖昧さが解消されて、衝撃が薄れるのではないか。ギャスパー・ノエらしさが減じるのではないか。見るまではそんな心配もあったが、杞憂だった。
意味やつながりが明確化されたことで、物語はリアリティを帯び、衝撃はより生々しくなり、悲劇性は痛切さを増した。逆行させようと順行させようと、作品の強度は変わらない。ギャスパー・ノエ、やはり只者ではない。
アレックス STRAIGHT CUT
2020、フランス
監督:ギャスパー・ノエ
出演:モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセル、アルベール・デュポンテル、ジョー・ブレスティア
公開情報: 2021年10月29日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー
公式サイト:https://alex-straight.jp
コピーライト:© 2020 / STUDIOCANAL - Les Cinémas de la Zone - 120 Films. All rights reserved.