外国映画

映画レビュー「MORE/モア」

2021年11月3日
今から50年前、ヨーロッパ映画界で光芒を放った、伝説の女優ミムジー・ファーマー。その代表作となった鮮烈なロックムービー。

60年代後期のムードが充満

「自由に生きたい」と、ドイツのリューベックからパリに出てきたステファン。たちまちギャンブルで有り金を使い果たすが、チャーリーという男に救われ、親しい関係になる。

たが、すぐにチャーリーの金も底を尽いたことから、二人は富豪のパーティに侵入、金をくすねようと企む。チャーリーが女性のハンドバッグからこっそり金を抜く間、あろうことかステファンは、そのハンドバッグの主とは知らず、謎めいた美女にアプローチ。彼女が泊るホテルでの密会を約束してしまう。

いわくつきの女なのだろうか。「彼女には近づくな」というチャーリーの警告も聞かず、その女性エステルにのめり込むステファン。二人はたちまち親密となり、イビサ島で再会することになるが――。

ステファンがハイウェイでヒッチハイクする冒頭のシーンから、ピンク・フロイドの音楽が流れ、69年という時代のムードに包まれる。ステファンとチャーリーが出会うクラブのピンボールマシン、パーティ会場のアパルトマンに飾られたリキテンスタインの絵画、マリファナの回し飲み。60年代後半の時代色が、リアルタイムならではの生々しさで画面に溢れかえっており、同時代を生きた者にはノスタルジーを、遅れて生まれてきた者には憧れめいた感情を掻き立てるかもしれない。

そう言えば、ステファンとエステルが過ごすことになるイビサ島も、ヒッピー文化の拠点として知られた場所だ。海と太陽と青空。暖かさと陽光を求めて北国からやってきたステファンにとっては、まさにユートピアのようなところである。

数学を学ぶ初心(うぶ)な学生だったステファンは、ニューヨークからやってきた大人の女エステルに、マリファナの手ほどきを受け、やがてヘロインにまで手を出す。二人は破滅への道を突き進んでいく。

ドラッグに加えて、ある男の存在も、二人の間に影を落としている。ウォルフという名の闇組織の男。エステルは「ただの友だち」と言い張るが、しだいにエステルとの関係が露わになっていく。

イビサ島での二人は、「気狂いピエロ」(65)のジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナを彷彿とさせるが、全裸で海岸を走り回り、瞑想にふけり、甲羅干しするステファンとエステルの姿には、アメリカン・ニューシネマの匂いも感じられる。何にせよ、ミムジー・ファーマーの笑顔と肉体は、たまらなく眩(まばゆ)く、狂おしい。

カリーナに翻弄されるベルモンドがそうであったように、エステルによって狂わされるステファンの人生が、どのような結末を迎えるか。古今のファム・ファタ―ルものと同じプロセスをたどるのか――。プツンと切れるエンディングが潔い。

「パリところどころ」(65)や「愛の昼下がり」(72)などヌーヴェルヴァーグ作品をプロデュースしたバーベット・シュローダーの初監督作品。後年、巨匠となるネストール・アルメンドロスが撮影を担当していることも、特筆に値しよう。

伝説の女優ミムジー・ファーマーの代表作にして、青春ロックムービーの古典である。ファンが待ち望んだリバイバル上映。見逃してはならない。

※今回、もう一つのミムジー・ファーマー主演作「渚の果てにこの愛を」も同時公開される。愛と狂気に彩られた異色のミステリー。元祖ファム・ファタ―ルとも言うべきリタ・ヘイワースとの競演も見ものだ。

映画レビュー「MORE/モア」

MORE/モア

69、西ドイツ/フランス/ルクセンブルク

監督:バーベット・シュローダー

出演:ミムジー・ファーマー、クラウス・グリュンバーグ、ハインツ・エンゲルマン、ミシェル・シャンデルリ

公開情報: 2021年11月5日 金曜日 より、新宿シネマカリテ他 全国ロードショー

公式サイト:https://mimsyfarmer2021.com

コピーライト:© 1969 FILMS DU LOSANGE

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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