40年連れ添った妻がまさかの不倫
東京近郊。海の見える古びた団地に三郎と美智子の老夫婦が住んでいる。倦怠期などとうに過ぎたであろう枯れた関係。
ある日、美智子がめかしこんで外出する。「化粧濃いんじゃないか。年寄りが厚化粧するとみっともないぞ」。三郎に言われるが、美智子は気にも留めず、そそくさと家を出ていく。
美智子の帰りを待つ三郎のガラケーが鳴る。京都からだった。美智子がひき逃げに遭って意識不明の重体だと言う。
美智子は文学講座に行くと言っていた。あれは嘘だったのか。訝(いぶか)しく思いながら、三郎は京都へ向かう。
そこで三郎が知ったのは、おそるべき美智子の秘密だった。何と、美智子は、遠路はるばる京都まで足を延ばし、浮気をしていたのだ。
美智子の所持していた愛用のアナログカメラ。そのフィルムに写っていた男が動かぬ証拠だった。
頭に血が上った三郎は相手の男を突き止めるため、娘の知美を伴い、美智子の実家がある奈良に向かう。
美智子の姉や少女時代のボーイフレンドから聞かされる話は、40年も連れ添っていながら、三郎の知らないことばかりだった。そして、ついに浮気相手の医師・甲斐田と対面。
美智子と甲斐田との関係は33年も続いていた。知り合ったのは三郎と結婚するずっと前だ。美智子の家庭の事情がネックで結婚できず、仕方なく別れたが、三郎との結婚生活に満たされず、焼けぼっくいに火が付いた、ということらしい。三郎の中で積み重ねてきた思い出が崩れていく。
40年も連れ添った妻に33年も裏切られていた三郎。夫から得られない愛を昔の恋人に求めた美智子。美智子の求めに応え続けた甲斐田。
3人のうち誰に感情移入するかによって、映画の見え方は変わるだろう。しかし、主人公は三郎だから、どうしたって三郎の視点で映画を見てしまうことになる。
はっきり言って、つらい映画だ。娘が生まれてセックスレスとなり、女としての美智子はつらかったかもしれないが、三郎は大工として真面目に働き、生活を支えてきた。彼なりに美智子を愛してきたはずだ。何でこんな目に遭わされなきゃならないのか。
もし、美智子が車にひかれければ、この先もずっと三郎は騙され続けていただろう。ある意味、お人好しである。そんな男を欺いてはいけない。
今の時代、夫婦関係はワンエラー即ゲームセットが常識。だから、別れてやり直せばいい? もちろん若ければそうすればいい。だが、三郎の人生はすでに黄昏時。今さらリセットするわけにもいくまい。
要するに、晩年に起きたことが悲劇なのだ。他人事(ひとごと)と思うから見ていられるが、いつか我が身にこんなことが起きたらと思うとぞっとする。
「私、どっちとも別れないから」。身勝手なことをシレっと言ってのける美智子の、悠然とさえ見える佇まい。三郎の鉄拳を食らったくらいではビクともしない、恋の勝者たる甲斐田の余裕。
こんな二人に対し、立つ瀬のない三郎なのだが、思わぬ形で救いが訪れる。それは、老いたる者が特権として獲得する、朦朧(もうろう)たる平和である。
なん・なんだ
2021、日本
監督:山嵜晋平
出演:下元史朗、烏丸せつこ、佐野和宏、和田光沙、吉岡睦雄、外波山文明、三島ゆり子
公開情報: 2022年1月15日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー
公式サイト:https://nan-nanda.jp/
コピーライト:© なん・なんだ製作運動体
配給:太秦