外国映画

映画レビュー「女っ気なし」

2022年8月20日
フランス北部のリゾート地。美しい母娘がヴァカンスに訪れる。滞在先は、内気な独身男が管理するアパート。恋の女神は微笑むか!?

ヴァカンス映画の傑作

※「みんなのヴァカンス」の公開を記念して開催中のギヨーム・ブラック監督特集。その1本として上映される「女っ気なし」(2011)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

フランス北部の寂れたリゾート地。パリから美しい母娘がヴァカンスを過ごしにやってくる。

二人が滞在するのは、シルヴァンという独身男が管理するアパートだ。ふだんは女性と縁のない生活を送っているシルヴァン。ここぞとばかり、母娘をもてなすのだが――。

ビーチではしゃぎ回り、アパートでジェスチャーゲームに興じ、ディスコで夜を明かす。映画は、そんな3人の姿をスケッチ風に追っていく。

晩夏の淡い光の中、ヴァカンスという期間限定の時間が流れていく。いつか必ず終わりがやってくる。そんな切迫感がかすかに滲んだ風景は、ジャック・ロジエ監督の「オルエットの方へ」(71)を彷彿させる。

ストーリー上の焦点となるのは、母親に対するシルヴァンの恋心である。気さくでグラマラスな母親は、不器用で風采の上がらないシルヴァンにとって、ちょっと不釣り合いな相手にも思える。はたして、内気なシルヴァンに恋の女神は微笑むのか。

ラストの展開には意表を突かれる。“伏兵”が誘惑者に変身し、恋の不可思議を見せつける。

このクライマックス場面で、いよいよ露わになるシルヴァンの純真さ。少年を通り越して、ほとんど乙女のようにさえ思える、シルヴァンの初々しさが愛おしい。

さえない独身男が経験するひと夏のアバンチュール。主人公が美男でも器用でもないところが、この作品に独特の魅力を与えている。

シルヴァンの人物造形には、おそらく演じたヴァンサン・マケーニュ自身の性格が反映されているのだろう。実に愛すべきキャラクターである。

夏のヴァカンスを舞台にした映画は数多く、それだけで1ジャンルを形成するほどだが、その中でも本作は屈指の名作と言ってよいのではないか。

メガホンを取ったのは、短編「遭難者」(09)でデビューし、本作が2作目になるギヨーム・ブラック。フランスで新人としては異例のロングランヒットを記録し、今後の活躍が期待される俊英である。

女っ気なし

2011、フランス

監督:ギヨーム・ブラック

出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー、ロラン・パポ

公開情報:2022年8月20日 土曜日 より、ユーロスペース他全国ロードショー

コピーライト:© Année Zéro – Nonon Films – Emmanuelle Michaka

配給:エタンチェ

「みんなのヴァカンス」公開記念

ギョーム・ブラック監督作品を週替わりで特集上映!

8月20日(土) 13:05『遭難者』+『女っ気なし』
8月21日(日)~26日(金) 15:20『遭難者』+『女っ気なし』
8月27日(土)~9月2日(金) 時間未定『やさしい人』
9月3日(土)~9日(金) 時間未定『勇者たちの休息』『7月の物語』

詳細は下記サイト

http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000616

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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