恋に憑かれた中年男が狂気の行動へ
※「みんなのヴァカンス」の公開を記念して開催中のギヨーム・ブラック監督特集。その1本として上映される「やさしい人」(2013)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。
「女っ気なし」(2011)のギヨーム・ブラック監督が、再びヴァンサン・マケーニュ主演で撮った、初の長編作品だ。ミュージシャンとして盛りを過ぎた主人公マクシムが、若い女性記者メロディと恋仲になるが、やがてメロディはマクシムの前から姿を消してしまう――というのが中盤までの展開。
「女っ気なし」の気弱な主人公であれば、女が去った時点であきらめてしまうだろう。だが、本作の主人公マクシムはなかなかしぶとい。せっかく手に入れた恋人を手離してなるものかと、驚きの“恋人奪還劇”を繰り広げるのである。
今でこそ風采の上がらないマクシムも、かつてはロックミュージシャンとして、そこそこ売れていた男。モテた時期もあったろう。地元の田舎町では一応名士でもある。よもや田舎の小娘にあっさりフラれるなんてあり得ない。そう思ったとしても不思議ではない。
実際、強気に攻めてあっさりメロディをモノにしてしまうのだし、燃え上がる情熱の赴くまま、ロマンティックな冬のヴァカンスを過ごしたりもするのだ。なのに、彼女は突如として失踪してしまう。いったい、なぜ? 割り切れない気持ちから、マクシムは狂気の行動に出る。
はたして、中年男の一途な恋心は娘に通じるのか。中盤以降の展開は、極上のラブサスペンス。意外な結末には、女心の不可解さを思い知らされる。
物語の核を成すのは、マクシムとメロディとの恋愛だが、もう一つ、重要なのが、マクシムと父親との関係である。やや人生に疲れた感のあるマクシムに対し、アウトドア・スポーツを好み、いまだ女性関係の絶えない父親は、好対照のキャラクター。
父親の生きるエネルギーが、マクシムの消えかけた情熱に火を付けたか。エンディングに漂うほのかな希望も、父親の存在あってこそだろう。
父親役は、ヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な監督であるジャック・ロジエの「オルエットの方へ」(71)や「メーヌ・オセアン」(86)に出演したベルナール・メネズ。前作「女っ気なし」はロジエの影響を感じさせる作品だったが、本作でメゼズを起用したのも、ロジエへのオマージュなのかもしれない。
やさしい人
2013、フランス
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ
公開情報:2022年8月27日(土)より、ユーロスペース他全国ロードショー
コピーライト:© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS – WILD BUNCH – FRANCE 3 CINEMA
配給:エタンチェ
「みんなのヴァカンス」公開記念
ギヨーム・ブラック監督作品を週替わりで特集上映!
8月20日(土) 13:05『遭難者』+『女っ気なし』
8月21日(日)~26日(金) 15:20『遭難者』+『女っ気なし』
8月27日(土)~9月2日(金) 時間未定『やさしい人』
9月3日(土)~9日(金) 時間未定『勇者たちの休息』『7月の物語』
詳細は下記サイト
http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000616