玩具のピストルが姉妹を引き離す
子供時代の思い出が詰まった祖母の家を訪れた姉と妹。入院しているのか、施設に入っているのか、祖母の留守中に家を改装するので、不用品の整理にやってきたのだ。
姉は結婚していて子供がいる。それなりの生活感が漂う女性だ。一方、妹は独身であり、ライターとして多忙な日々を送っている。現在、妊娠中。
「一人で生むの」と姉に決意を告げる妹。「不倫してたの?」と問う姉に「違う」ときっぱり。
せっかく文才があるのに、一人で子育てすれば負担になり才能を伸ばせない。それじゃもったいないじゃない。妹の選択に疑問を投げかける姉。
姉が出産したときは皆が祝ってくれたけど、自分は違う。つい恨み言を口にする妹。
子供の頃の玩具を見つけて、思い出話に花を咲かせたり、庭で子供の頃にやった遊びを再現したり、仲の良さを見せながらも、対照的な人生を歩む二人の間には確執もある。
画面の手前から奥まで伸びる左右対称な“縦の構図”が印象的だ。セットを組まず、家屋の中で撮影する場合、カメラポジションは自ずと制限される。その制約を逆手にとって生み出した独創的なスタイルだ。
家屋内の通路に据えられたカメラが作り出すこの構図の中に二人を追いながら、物語は淡々と進んでいく。ところが、中盤を過ぎたあたりで様相が変わる。
庭で玩具のピストルを手にした姉が、銃口を二階の窓に向け、引き金を引く。パンという銃声。カットが切り換わり、窓から庭を見下ろしていた妹が仰向けにひっくり返る。ベッドに倒れた妹はしばらく動こうとしない。ややあって起き上がった妹はおもむろに部屋を出ていく。
この秀逸な連続カットを機に、画面のムードが一変するのである。暗くなった室内。吹きすさぶ風の音。二人は家の中を移動しながら互いを呼び合うが、相手の居場所も分からず、出会うことができない。
唐突な転調は、映画を前半と後半に分断する。前半に後半の予兆はなく、後半で回収されるべき伏線もない。だからこそ、解釈は自由だ。姉妹の心象風景と見てもいいし、潜在意識の映像化・音像化と見てもいい。
何ともアナーキーな映画である。メガホンを取ったのは、「ある惑星の散文」で注目された気鋭の新人、深田隆之。本作はカンヌ、ベルリン、ヴェネチアに次ぐ映画祭として知られるサン・セバスティアン国際映画祭に正式出品される。
ナナメのろうか
2022、日本
監督:深田隆之
出演:吉見茉莉奈、笠島智
公開情報:2022年9月10日 土曜日 より、ポレポレ東中野でロードショー
公式サイト:https://www.itchan-and-satchan.com/
配給:夢何生