日本映画

映画レビュー「道草」

2022年12月10日
道雄の“やさしい絵”が好き。そんなサチの思いをよそに、道雄は蒐集家に求められるまま“パワーのある絵”を描き続けたが――。

売れるのは自分らしくない絵

売れない絵を描きながら、ごみ収集で生計を立てている榎本道雄。酒好きで気のいい中年男とペアを組み、それなりの心地よさを感じながら生きていた。

そんな道雄の前に富田サチという女性が現れる。道雄の絵が好きだと言うサチと道雄はたちまち親しくなり、デートを重ね、一緒に暮らすようになる。幸せな時間が流れていく。

だが一方で、道雄は二人の生活のために金を稼がなくてはと、焦り始める。美大時代の友人に多くの客が付き始めている。自分も画家として成功したい。

ある日、ゴミ収集所に捨てられていた抽象画が道雄の目に入る。思わず手に取ると、道雄はそのまま持ち帰ってしまう。

ほのぼのとした道雄の具象画とは対照的に、その絵には画家の激情が迸(ほとばし)っていた。道雄はその絵を自分の作品と偽り、サチの働く喫茶店に飾ってもらう。

すると、ある蒐集家が高値で購入。道雄を自宅に招き、作品を激賞する。「パワーがある。魂が描かれている」。味をしめた道雄は再びゴミ収集所へと向かい、同じ画家の絵をくすねてしまう。

しかし、やがて道雄は自力で絵を描かざるを得なくなる。本当は苦手で描きたくないタイプの絵だろう。それを無理して描く。苦しそうだ。辛そうだ。それでも、いったん獲得した評価を保つには描き続けなければならない。

道雄からやさしい笑顔が消えていく。サチが傍にいても、道雄は心ここにあらず。会話も絶える。あれほど愛おしそうに微笑み合っていた二人、じゃれ合い抱き合っていた二人が、ただの同居人のようになっていく。

描きたいものを描く道雄、やさしい絵を楽しそうに描く道雄が、サチは好きなのだった。だが、道雄は蒐集家に求められる絵を、苦しそうに描くだけの男になっていく。

そもそも道雄はサチのために売れようとしたのだった。しかし、それはサチの願いではなかったのだ。

“評価”という甘い毒に痺れ、取り返しのつかない過ちを犯してしまう道雄。そこでサチが選んだ行動は? 道雄がとった行動は?

純情で不器用な男が味わう幸福と愉悦、絶望、そして――。どこにでもいそうな平凡なカップルの恋愛を、リアルな現実の中に描き出した、ラブストーリーの傑作。

映画レビュー「道草」

道草

2022、日本

監督:片山亨

出演:青野竜平、田中真琴、Tao、谷仲恵輔、山本晃大、大宮将司、入江崇史

公開情報: 2022年12月9日 金曜日 より、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.highendzworks.com/michikusa

配給:夢何生

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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