映画レビュー「パーフェクト・ドライバー／成功確率100％の女」

最強の女ドライバー

事情があって宅配や郵便では送れないモノがある。そんなワケアリ荷物を隠密裏に届ける“運び屋”。廃車処理業を営むペッカン産業の裏の顔である。

失敗の許されない危険な仕事だ。担当するのはウナという若い女性ドライバー。卓越した運転技術を駆使して、どんな妨害、追跡も回避し、モノでもヒトでも必ず定刻までに目的地へ送り届ける。凄腕のプロフェッショナルだ。

その超人的なドライビング・テクニックが、開巻まもなく披露される。顧客は、敵対する組織か何かに追われるヤバい男たち。ドライバーが女と見るや小馬鹿にしたような顔をするが、車が発進音を立てるや表情が変わる。

ブレーキとアクセルをバスドラムのペダルのように踏み、精妙にギアチェンジしながら、狭小な路地を走り抜ける。一台分空いたスペースに一発で縦列駐車する。高速で通過する列車に接触寸前まで接近し、素早い方向転換で衝突を回避する。

次々と繰り出されるアクロバティックな技に驚嘆する男たち。一方、ルーティーンをこなしただけなのだろう、表情一つ変えず代金を受け取るウナ。

文句なしの導入部である。この時点で観客は本作のヒロインであるウナから目が離せなくなるだろう。そして、いよいよ本筋が動き出す。

今度の顧客は元プロ野球選手の賭博ブローカー、キム・ドゥシク。自身が関与した違法賭博が発覚し指名手配されたため、貯め込んだ大金と貸金庫の鍵を持ち、一人息子のソウォンとともに逃亡しようとしている男だ。

いつも通りに地図で走行経路を確認し、約束の地点で顧客の来るのを待つウナ。ところが、予想外のトラブルが発生する。ドゥシクが違法賭博の元締めをしている悪徳警官、チョ・ギョンビルとその手下たちに襲撃され、息子のソウォンだけを運ぶことになったのだ。

こうしてウナとソウォンの逃走劇がスタートを切る。ギョンビルは自らの犯した罪をウナに擦り付けた上で、ウナを執拗に追跡し、ソウォンの持つ金庫の鍵を狙う。

ホテル、駐車場、そしてペッカン産業。場所を変え、繰り広げられるウナＶＳギョンヒル一味の死闘が凄まじい。合間に挟まれるカーチェイス、カーバトルとともに、アクション映画の醍醐味があふれる。

しかし、それだけではない。途中から国家情報院が登場することで、ウナＶＳギョンビルの構図にもう一つの力が加わる。それにより、事件の真相解明が促されるとともに、ウナの素性が明らかになり、本作はにわかにヒューマンな色彩を帯び始めるのである。

ウナとペッカン産業・ペク社長との絆、頼れる整備工・アシフの存在が、終盤のクライマックスを盛り上げる。

そして、もちろん最大の焦点となるのが、ウナとソウォンとの関係だ。実はこの二人を演じたパク・ソダムとチョン・ヒョンジュンは「パラサイト 半地下の家族」（2019）で美術の家庭教師と教え子という役柄で共演している。

だからと言うわけでもないだろうが、本作で初対面からラストに至る二人の距離の縮め方は実に自然で、リアルな感情が息づいているように見える。

特にポーカーフェイスが持ち味のパク・ソダムは、その無表情に秘めた激情ともいうべき抑えた表現が、役柄にピッタリ。余人を以て替え難い絶妙のキャスティングである。