高齢化社会に一石を投じる問題作
「茶飲友達、募集。」新聞の三行広告欄に掲載されたキャッチコピーである。ターゲットは孤独な高齢男性。ティー・ガールズと呼ばれる高齢女性が、文字通りお茶を飲みながら会話の相手をするという会員制のサービスだ。しかし、これはあくまで建て前。実体は高齢者に特化した売春クラブなのである。
ティー・ガールズたちの管理や送迎は、若者たちが行っている。彼女たちも顧客の男性も、若者たちの両親ぐらいの年齢。要するに、親子の世代が共同で売春ビジネスに携わっているのだ。
若者たちは家族に恵まれなかったり、親子関係が破綻していたりと、問題をかかえている者ばかり。いわば“寄る辺なき若者”が参集して、「茶飲友達」というニュービジネスに挑戦しているわけだ。
「マナとファミリーになってくれませんか」。これは「茶飲友達」の代表者である佐々木マナが高齢女性をスカウトする際の決めゼリフだ。まさに彼らは家族のような関係なのである。
若者たちがミーティングを行い、しばしば宿泊にも使うシェアハウスは、ティー・ガールズたちの待機場所でもある。部屋に指名上位者の名前と写真が貼られているところなど、まさに風俗店そのものなのだが、彼女らティー・ガールズの表情に屈託は感じられない。
もともとは顧客同様、寂しい生活を送っていたのだろう。それがマナとの出会いで居場所を獲得し、風俗嬢としての人生を謳歌しているようなのだ。
万引きをし、自殺未遂まで追い込まれた国枝松子も、マナに救われた一人。全く生気のなかった松子が、ガールズの一員として仕事をこなしていくうちに、見る見る輝きを取り戻し、女としての色香を放っていく。磯西真喜が見せる入魂の演技にぜひ注目してほしい。
マナは、そんな松子を母親のように愛し、慕う。松子もまたマナを娘のように可愛がる。実の母親との間に確執のあるマナと、両親の介護に追われ婚期を逸し子供のいない松子。二人は互いの欠落を補うかのように求め合う。
ストーリーを推進するのは、マナと松子との関係だ。二人の心が結び付いていくプロセスは、「茶飲友達」が顧客を増やし、若者やティー・ガールズたちが成功を手にしていく過程でもある。
それはヒロインが言うように、血縁や婚姻に縛られない新しい形のファミリーの可能性を示してもいた。しかし、ある日、思いもかけなかった事件が起きる――。
70代以上の高齢者の8割は性欲ありという調査結果が劇中で紹介される。そういった人たちの性欲処理を担うサービスがあるのは当然だろう。実際、本作は高齢者向け売春サービスが摘発された実在の事件にインスパイアされ生まれている。
高齢者同士の性交渉については、世間的にはタブー視される一方、センセーショナルな興味をかき立てる面もあろう。本作はワークショップで選ばれた女優たちが、体を張った芝居で老人の性の実態に迫っており、瞠目に値する。
監督は「ソワレ」(2020)の外山文治。高齢化社会に一石を投じる問題作だ。
茶飲友達
2022、日本
監督:外山文治
出演:岡本玲、磯西真喜、海沼美羽、渡辺哲
公開情報: 2023年2月3日 金曜日 より、渋谷ユーロスペース他 全国ロードショー
公式サイト:http://teafriend.jp/
コピーライト:© 茶飲友達フィルムパートナーズ
配給:EACHTIME