外国映画

映画レビュー「小さき麦の花」

2023年2月9日
貧しい農民夫婦の営みを描きながら、愛の本質をつかみ出して見せた、傑作ラブストーリー。詩情あふれる美しい映像に息を呑む。

リアリズムとファンタジー

貧しい農夫のヨウティエと、体に障害を持つクイイン。ともに家族のお荷物的な存在だった二人が、見合い結婚をして、夫婦となる。

双方の家族にとっては、体のよい厄介払いだったろう。強引に結ばれた夫婦である。ところが、そんな二人が周囲から揶揄(からか)われるほど仲睦まじい夫婦となっていく――。

麦の種まき、収穫、出荷。鶏や豚の飼育。来る日も来る日も過酷な農作業に明け暮れる二人の姿が丁寧に映し撮られていく。

ヨウティエに扮するウー・レンリンは、映画の舞台となった甘粛省の村で実際に農業に従事している人物だ。そのため、一挙手一投足に芝居ではないリアルさがある。

一方、クイイン役のハイ・チンは、本作の出演に当たってウーの家に10カ月滞在し役作りに励んだことで、農民の動作が体にしみ込んでいる。

この二人が体現する農民のリアリズムにまず目を奪われる。だが、それだけではない。

季節が移ろう中、麦が成長し、卵が孵(かえ)り、二人の関係も深化していく。最初はぎこちなかった二人の心の距離がみるみる縮んでいく。その様子が実に繊細に描き出されているのだ。

映像詩とも言うべき、美しい場面が連なっていく。たとえば、先祖に結婚を報告した後、砂丘の頂上に並んで座った二人が会話を交わすシーン。一幅の絵画のような完璧な構図に、思わず溜息が出る。

ほかにも、卵を孵化させる段ボール箱から発せられる光がイルミネーションのように二人の顔を照らすシーン、屋根の上で二人が体を結んで寝るシーンなど、美しい場面をいくつも目撃することができる。

いずれも、リアリズムがファンタジーへと転じるとともに、二人の愛が結晶化する瞬間が捉えられている。

その意味で、本作はリアリズムの映画であると同時に、ファンタジーの映画でもある。ファンタジーは目に見えないものに形を与え永遠化する。だから、ヨウティエはクイインの手に麦の花を刻印したのだ。

徹底的なリアリズムにファンタジーを溶け込ませることで、愛の本質を鮮やかにつかみ出して見せた、リー・ルイジュン監督の才能が光る。夫婦の純愛を描いたラブストーリーとして、チャン・イーモウ監督の「初恋のきた道」に並び立つ傑作だ。

映画レビュー「小さき麦の花」

小さき麦の花

2022、中国

監督:リー・ルイジュン

出演:ウー・レンリン、ハイ・チン

公開情報: 2023年2月10日 金曜日 より、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国ロードショー

公式サイト:https://moviola.jp/muginohana/

コピーライト:© 2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.

配給:マジックアワー、ムヴィオラ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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