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「収容病棟」ワン・ビン監督インタビュー

2018年3月21日
「収容病棟」ワン・ビン監督インタビュー
「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛を表現したかった」映し出されるのは、愛を求めてやまない実に人間的な人々の姿

精神を病んだ人たち同士の人間的な愛

※新作「苦い銭」公開中のワン・ビン監督が、収容病棟」公開の2014年に来日した際に書いたインタビュー記事を、一部加筆した上で掲載します。

精神病患者が一億人を超えると言われる中国。その精神病院に初めてカメラが入る。映し出されるのは、社会から見放されてもなお、愛を求めてやまない、実に人間的な人々の姿。「無言歌」(2010)、「三姉妹~雲南の子」(12)のワン・ビン監督が、社会のタブーに踏み込み、人間の本性をつかみ出して見せた、ドキュメンタリー映画「収容病棟」。ワン・ビン監督は「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛を表現したかった」と語った。

「収容病棟」ワン・ビン監督インタビュー

“生きているか死んでいるか”はどうでもいい

精神病院をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと思い立ったのは2003年。北京郊外にある精神病院を訪れたときだった。

「20年も30年も入院している患者がいることを知り、衝撃を受けた。さっそく撮影を申し入れたが断られた。それから09年まで何度も訪れたが、結局、撮影許可は下りなかった」

最後に訪れたとき、何人かの患者が姿を消していた。看護師に尋ねると、「亡くなった」との答え。

「看護師たちは、私がそんな質問をしたことに驚いていた。それまで、そんなことを聞いてくる人はいなかったからだ。入院している患者たちは家族に見捨てられた人たちが多い。だから、“生きているか死んでいるか”なんてどうでもよかったんだ」

歩いてくる患者をよけながらの撮影

北京の病院は断念。しかし、それから3年後の12年、吉報が舞い込む。ある友人が、雲南省の精神病院で撮影許可を取ってくれたのだ。撮影には一切制限もなく、自由にカメラを回していいと言う。

さっそく準備を整え、数カ月後には撮影開始。問題は、精神病院という閉鎖的な空間で、ワン監督の撮影スタイルが保てるかということだった。

「ほどよい距離を保ちながら撮るのが私のスタイル。あまり近付き過ぎるのは好きではない。しかし、この病院は廊下が回廊状で、幅は1メートルくらい。画面では広く見えるかもしれないが、実際はとても狭い。そこでカメラを回せば誰かにぶつかる。最初の10日くらいは、近距離で撮らざるを得ないこともあった。しかし、15日目くらいからは、歩いてくる人を巧みによけて撮る方法を習得し、いつものスタイルで撮れるようになった」

撮影は順調に進んだ。患者からの妨害や抵抗もほとんどなかった。

「一度だけ、私とコンビを組んだカメラマンが顔を殴られた。患者が発作を起こしたのだ。彼は2、3日たってから謝りにきてくれた。以来、彼とはいい関係を保つことができた。撮影中のアクシデントはその1回だけだ」

精神病患者とは言えない人も収容

撮影をしていない時間は、廊下に座って患者たちと話をした。

「よくタバコをねだられた。私のことを“タバコをくれる人”として見ていたようだ(笑)。お茶や日用品を求められたこともある。彼らは、病院内で起きたことをいろいろ話してくれた」

「収容病棟」というタイトルは、何となく暗く非人間的なものを感じさせるが、患者たちには、明るく人なつこい人も少なくない。

「この映画を撮影するまでは、精神病院や患者の実態についてほとんど知らなかった。撮影に入って毎日患者たちと一緒に過ごすと、一人ひとりの性格や病状が、少しずつ把握できるようになった。すると、彼らがここに入ってきた理由や家庭環境もだんだん分かってきた」

多種多様な人々が収容されていた。中には、精神病患者とは言えない人もいた。

「ある若い男性は、“少しばかり頑なで、他人とちょっと違う”という理由だけで収容されていた。そういう人たちを見ていると、自分たちも、いつ同じようにこういう病院に閉じ込められるか分からないと思った」

社会から見放されても愛を求めてやまない人々

終盤に印象的なラブシーンがある。鉄格子越しに男性と女性の患者が抱き合いキスをする。逆光の中に浮かび上がるシルエットが美しい。

「あの女性は一人っ子政策に違反して病になった人。2人が恋愛関係にあることは、いろいろな人から話を聞いて知っていた。2人のシーンはかなり撮ったが、最もシンプルなシーンだけを編集段階で残した。あれは、春節の大晦日から元日にかけてのシーン。逆光になっているのは、あの場所にトイレがあり、人がくると電気がつくようになっているせい。あそこに行けば逆光で撮れることは分かっていた。2人はもっと直接的な触れ合いもしていたが、さすがに撮影は遠慮した」

本作の原題は「瘋愛」。瘋というのは「狂った」という意味だ。「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛をこのタイトルで表現したかった」そうだが、“鉄格子越しの愛”は、その象徴的なシーンと言えるだろう。

社会から見放されてもなお、愛を求めてやまない人々。収容病棟」は、そんな人々の日常をありのままに切り取った、渾身のドキュメンタリーだ。

前・後編合わせて4時間の長尺。しかし、その濃密な映像からは、一瞬たりとも目を離すことができない。ワン・ビン監督の面目躍如たる作品である。

収容病棟

2013、香港・フランス・日本

監督:王兵(ワン・ビン)

公式サイト:http://moviola.jp/shuuyou/

コピーライト:© Wang Bing and Y. Production

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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