映画レビュー「To Leslie トゥ・レスリー」

どん底に落ちた母が再起を図る

主人公のレスリーはアルコール依存症のシングルマザー。6年前に宝くじが当たり、大金を手にしたが、酒代であっという間に使い果たしてしまう。その上、借金で家も失い、一人息子のジェームズを置いたまま、町から逃げ出した。

以来、モーテル暮らしを続けていたが、宿泊費が払えず追い出され、ジェームズに泣きつく羽目に。未成年ながら都会で働くジェームズは、同僚とシェアするアパートの部屋にレスリーを住まわせる。

少年だった自分を捨てた母親。恨んでもいい相手だが、心やさしいジェームズは酒を断ち、職を見つけるという条件で、母親を受け入れた。だが、そんな息子の温情をレスリーはいとも簡単に裏切る。

職探しどころか、ジェームズが勤務で外出している隙を突いて、息子や同僚の金をくすね、酒代に当ててしまうのだ。さすがにジェームズにも愛想を尽かされ、今度は旧友だったナンシーとダッチの家に居候するが、ここでも見捨てられ、追い出される。

わかっちゃいるけど、やめられない。アルコールの怖さである。そんなダメ女の人生に、転機が訪れる。居場所を失ったレスリーが流れ着いた、古びたモーテル。その従業員であるスウィーニーが、何を思ったか、彼女を雇い入れるのである。

息子からも旧友からも見限られ、町を歩けば後ろ指をさされるようなレスリーに、初めて本気で向き合ってくれた男。そんなスウィーニーの好意に対し、当初はにべもない態度をとっていたレスリーが、少しずつ変化していくプロセスが見ものだ。

人を出し抜き、自分の欲望を満たすことしか考えていなかった、酒浸りの女。それが、スウィーニーの愛情によって、真っ当な女性へと変身していく。彼女をよい方向へ突き動かしていくのは、スウィーニーだけではない。彼女の立ち直りを支えるもう一人の存在、それは、ひどい仕打ちばかりしてきた息子のジェームズである。

オープニングロールに映し出される家族写真。レスリーが大切に保管してきたのであろう、それらの写真には若く美しいレスリーと幼いジェームズが幸福そうに微笑む姿が記録されている。

注意して見ると、写真にはどれも指紋がこびりついている。たぶんレスリーのものだろう。何度も何度も写真を手に取り見つめてきたに違いない。要するに、この映画、のっけから息子への母の愛が漲（みなぎ）っているのである。

当然、本作はヨーロッパ作品などによくあるように、ヒロインが破滅する映画にはなり得ない。いかにもアメリカ映画らしい希望あふれるエンディングは、素直に見る者の胸を熱くするだろう。

レスリー役のアンドレア・ライズボローが好演。前半のやさぐれた表情が、後半はアルコールの抜けたさっぱりした顔つきに変わり、目の輝きまで一変する。酒に蝕まれた女から愛に溢れた女性へ。鮮やかな変貌ぶりに目を瞠（みは）る。