台湾ニューシネマの原点
シングルマザーのシウインは、息子アジャの将来を考え、年の離れた公務員のビー・ターシュンと見合い結婚する。ターシュンはアジャを実の子のように可愛がり、多少ぎごちなくはあるが、シウインが望んだ通りの温かな家庭が築かれていく。
やがて弟も二人生まれ、アジャは中学へ進学する。だが、もともと悪戯好きな少年だったアジャは、悪童仲間とつるむようになり、しだいに問題行動はエスカレート。敵対するグループとの喧嘩では、深刻な事件を起こし、窮地に追い込まれる――。
もちろん、毎日がトラブルばかりではない。後輩女子への告白やデートなど、青春を謳歌する姿も描かれる。つらいこともあれば、楽しいこともある。要するに、本作はアジャという一人の少年の、よいことも悪いことも含めた、成長の記録なのである。
物語は、アジャのクラスメートで隣家に住むシャオファンという少女の視点で描かれる。アジャとその家族に起きた出来事を見つめ続けたシャオファンが、大人へと成長した現在の時点から、それらを回想していくスタイルだ。
したがって、画面に現れるのは、あくまで彼女から見たアジャであり、アジャが自ら語ることはない。アジャは主体ではなく客体なのだ。だから、カメラはアジャに近づきすぎることなく、一定の距離から眺めるように映し出す。
それは、アジャの母であるシウインについても同様だ。なぜ彼女は幸せそうでもなければ、不幸せそうでもないのか。なぜ突如として死を選んでしまったのか。シウイン自身は何も語らない。あくまでシャオファンの印象や感想が語られるだけなのだ。
このように人物から距離を保ち、決して内面に立ち入らない表現スタイルは、本作に共同脚本家として参加したホウ・シャオシェンの作品の特徴として、独特の情感を醸し出すことになる。
それは、本作の共同脚本家で、次作「風櫃の少年」以降ホウ・シャオシェンとコンビを組むことになるチュウ・ティエンウェンとの共同作業がもたらしたものに違いない。
その意味で、本作はホウ・シャオシェンのスタイルを決定づけるとともに、台湾ニューシネマの幕を切って落とした画期的な作品と言えるだろう。
「台湾巨匠傑作選2023」で上映。デジタルリマスター版、劇場初公開。
少年
1983、台湾
監督:チェン・クンホウ
出演:チャン・チュンファン、ツイ・フーシェン、イェン・チェンクオ、ジョン・ジュアンウェン、ニウ・チェンザー、トゥオ・ツォンホア
公開情報: 2023年7月22日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー
公式サイト:https://taiwan-kyosho2023.com/
コピーライト:© 1983 Central Motion Picture Corporation & Evergreen Film Company / ©2023 Taiwan Film and Audiovisual Institute
配給:オリオフィルムズ