日本映画

映画レビュー「まなみ100%」

2023年9月28日
“まなみちゃん”が好きだった―。二度と訪れることのない青春の儚さ、後戻りできない人生の残酷さを鮮烈に描く、青春映画の佳作。

アグレッシブなくせに臆病

高校に入学した主人公の“ボク”は、“まなみちゃん”に一目惚れし、彼女と同じ体操部に入部する。親友の熊野くんと町くんも一緒だ。すでにカンナちゃんという彼女がいるのだが、ボクはまなみちゃんに積極アプローチ。

まなみちゃんもボクに興味を持ってくれたようで、メアドを交換してくれる。ただし、ボクの浮気性を見抜いたか、彼女はつねにボクと一定の距離を保ち、なかなか隙を見せない。何しろ体操部の瀬尾先輩に憧れていることだって、ボクは隠そうともしないのだ。仕方ない。

付き合っていたカンナちゃんに愛想を尽かされたボクは、夏休みにまなみちゃんをデートに誘うが、彼女との距離は縮まない。そして、そのまま高校を卒業。まなみちゃんと会うこともなくなった。

一浪して入学した第二志望の大学では映研に入り、“くろけいちゃん”という新しい恋の相手も見つけた。そんなある日、社会人になっている瀬尾先輩とバッタリ出くわす――。

決して不真面目なわけでも、不良でもないのだが、主人公のボクにはどこかいい加減なところがある。だが、そのいい加減さが一種の色気を醸し、女性を惹きつけるのだろう。カンナちゃん、くろけいちゃん、瀬尾先輩と、魅力的な女性が集まってくる。しかし、彼にとって本命は依然としてまなみちゃんなのだ。

そのまなみちゃんと再会するのは、病に臥した瀬尾先輩を見舞いに行ったとき。病室にまなみちゃんがいたのだ。一足早く大学を出て就職した彼女は、すっかり大人の女性となっている。

とても同級生とは思えない。いや、彼女だけではない。いつもつるんでいた熊野くんや町くんも立派な社会人になっていた。

みんな大人になっていく。いつまでも学生気分を引きずっているのはボクだけなのだ。だが、ボクのモラトリアム人生にもついに終焉がやってくる。皮肉にもボクの青春に幕を下ろすのは、まなみちゃんなのだった。

高校入学から10年間にわたり同級生への主人公の思いを綴ったラブストーリー。川北ゆめき監督自身の個人的体験をベースにした自伝的作品である。

次々と現れる女性たちがいずれも魅力的。主人公は青春を謳歌しているように見えなくもない。だが、まなみちゃんへの思いゆえに、主人公の心はいつも渇いている。ならば、素直に思いをぶつければいいのに、なぜか彼女に対しては率直にふるまえない。愛をうまく伝えられない。アグレッシブなくせに臆病なところがあるのだ。

そんなデリケートで複雑な主人公を、「うみべの女の子」(2021)の青木柚が絶妙に演じ、見事に川北監督の分身を造形して見せた。

随所にユーモアをまぶしつつ、二度と訪れることのない青春の儚さ、後戻りできない人生の残酷さを鮮烈に描いた、青春映画の佳作である。

映画レビュー「まなみ100%」

まなみ100%

2023、日本

監督:川北ゆめき

出演:青木柚、中村守理、伊藤万理華、宮﨑優、新谷姫加、菊池姫奈

公開情報: 2023年9月29日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:https://manami100-movie.com/

コピーライト:© 「まなみ100%」製作委員会

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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