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映画レビュー「ショーイング・アップ」

2023年12月23日
個展に向けて創作に励むヒロインが、アクシデントに見舞われ、ピンチに追い込まれる。ヒロイン役をM・ウィリアムズが好演。

A24の知られざる映画たち

「スプリング・ブレイカーズ」(13)の大ヒットで注目を浴び、その後も「ムーンライト」(16)、「ミッドサマー」(19)、「ミナリ」(21)、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(22)など、次々と個性的な作品を配給・制作し、インディーズ映画界に確固たる地位を築いてきたアメリカのエンターテインメント・スタジオ“A24”。

多様なジャンルにわたり、芸術性と娯楽性を兼ね備えた秀作の数々を生み出してきた実績はきわめて大きく、今や“A24”なら見て損はない、という映画界の一大ブランドにまでなっている。

そんなA24の日本初公開作11本が「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」と銘打ち、特集上映される。これまでA24作品を多数配信してきたU-NEXTによる、配信に先駆けた全国4都市・5劇場でのロードショー公開だ。

ティルダ・スウィントンが母と娘の一人二役を演じたゴシック・ミステリー「エターナル・ドーター」、漫画家を夢見て家を飛び出した高校生の奇妙な体験を描いた「ファニー・ページ」、名優ヴァル・キルマーが半生を振り返る「ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男」ほか8本。いずれも独自のスタイルをもち、創造性にあふれた逸品揃いだ。

K・ライカートとM・ウィリアムズが4度目タッグ

すべて注目作と言ってよいが、ここでは“インディーズ映画界の至宝”ケリー・ライカート監督の「ショーイング・アップ」を紹介しよう。

主人公のリジーに扮するのはミシェル・ウィリアムズ。ライカート監督とはこれが4度目のタッグとなる。

リジーは美術大学の講師をしており、8日後に開催される個展に向けて作品制作に取り組んでいる。

ところが、さまざまなトラブルやアクシデントに見舞われ、集中力をそがれてしまう。はたしてリジーは期日までに無事作品を完成させることができるのか――。

リジーを悩ますトラブル、それは自宅のお湯が出ないこと。隣に住む大家のジョーに修理を依頼するが、なかなか対応してくれない。彼女も同じ美大出身のアーティストで、やはり個展を控えているのだ。要するに、互いに1分も無駄にしたくない状況にある。

夏なのにシャワーも浴びられない日々が続き、苛々が募るリジー。そこにもう一つアクシデントが起こり、リジーはさらに追い込まれる。

リジーの飼い猫に襲われて傷を負った鳩を、世話しなければならなくなったのだ。実はリジーが傷ついた鳩を捨て、それを知らずにジョーが鳩を助けたのだが、その世話をリジーが引き受けざるを得なくなったのだ。この件に関しては、どう見ても、鳩を捨てたリジーより、助けたジョーが正しい。

なので、観客は一方的にリジーの肩を持つことなく、ジョーにも共感しつつ、二人の関係を見つめていくことになる。

家を貸し借りするくらいだから仲は悪くない。ともに相手の才能を認め合っている。であればこそ、なおさらリジーは悶々とするわけだ。

ジョー役のホン・チャウが、ミシェル・ウィリアムズに負けず劣らずの好演。内にこもりがちなリジーとは対照的に、外交的でサバサバした女性を生き生きと演じ、強い印象を残している。

因縁の鳩が重要な役割を果たす終盤の展開では、ムードが一転。舞台となったポートランドの美しい風景や澄み渡った空気も相俟って、清々しいエンディングを迎える。

すぐれた人間ドラマであるのに加え、作品の制作過程も丁寧に描き込み、実在のアーティストの作品を使用するなど、ある種、ドキュメンタリー的な面白さも備えた、ユニークな映画である。

映画レビュー「ショーイング・アップ」

ショーイング・アップ

2023、アメリカ

監督:ケリー・ライカート

出演:ミシェル・ウィリアムズ、ホン・チャウ、ジャド・ハーシュ

公開情報:2023年12月22日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて4週間限定ロードショー。2024年1月26日 金曜日 より、U-NEXTにて独占配信。

公式サイトhttps://www.video.unext.jp/lp/a24-sirarezaru

コピーライト:© 2022 CRAZED GLAZE, LLC. All Rights Reserved.

配給:U-NEXT

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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