外国映画

映画レビュー「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

2024年6月20日
クリスマス休暇を学校で過ごすことになった先生と生徒と料理長。孤独な3人が心を寄せ合い、かけがえのない時間が紡がれていく。

孤独の殻を破って生まれる絆

1970年代初頭。ボストン近郊にある全寮制の名門男子校。クリスマス休暇を迎え、4人の生徒が居残りとなった。

彼らの世話を命じられたのは、古代史教諭のハナムだ。有力者の生徒を落第させた罰として、校長から居残りを命じられたのだ。

頑固で旧弊な価値観に縛られたハナムは、生徒にも同僚にも嫌われている鼻つまみ者。元々ひとりぼっちの彼にとって、クリスマス休暇の返上ぐらい、そう大したことではなさそうだ。だが、生徒たちにとっては苦痛以外の何物でもない。

ハナムのスパルタ教育が生徒たちを辟易させていたある日、ブルジョア生徒の父親が自家用ヘリコプターで学校に降り立つ。そして、息子と居残り仲間の2人を連れ、スキー旅行に飛び立ってしまう。

ひとり置き去りにされた生徒はアンガス。彼は、再婚相手とのハネムーンに出かけるという母親に、バカンスの予定をドタキャンされてしまっていた。

こうして、アンガスとハナムに、料理長の黒人女性メアリーを加えた、3人だけの日々が始まる。

頭は切れるが、反抗的で友人もいないアンガス。反発し合いながらも、どこかハナムと共通するところのある少年だ。一方、メアリーはこの学校の卒業生である息子をベトナム戦争で亡くし、悲しみに暮れていた。

世代も人種も境遇もバラバラだが、いずれも孤独な3人が休暇を共に過ごす。それまでは特に接点もなく、個人的な会話もほとんどなかったであろう3人が、顔を突き合わせ、心を開き、互いの人生にコミットしていく。

アンガスにとって、台無しになったように思えたクリスマス休暇。それが、2人との交流を通して、かけがえのない時間へと変化していく。

クリスマスの翌朝、3人は学校を飛び出し、ボストンへと向かう。「スケートがしたい。本物のツリーが見たい」。そんなアンガスの願いから実現した旅だった。しかし、実はアンガスには別の計画があった――。

途中から2人きりになったアンガスとハナムがともに隠してきた秘密が明かされる、終盤の展開が圧巻だ。2人はそれぞれピンチに襲われるが、互いに救いの手を伸ばし合う。当初は犬猿の仲にも見えた2人が、今やバディとなって助け合う姿に、胸が熱くなる。

人は一人では生きられない。だから助け合う。それが友情や愛情にもつながる。孤独の殻に閉じこもっていた2人は、ボストンで過ごした数日間にこのことを学ぶのだ。

人生は苦難に満ちている。不公平で不条理だ。馬鹿々々しいことも多い。それでも人は生きていかなければならない。そのときに、支えとなるのは、人と人との絆に他ならない。

描かれているのは、どの時代にも通じる真実だが、舞台となっている70年代のムードもしっかり味わいたい。マリファナ、長髪、レコード。ラジオから流れるショッキングブルーの「ヴィーナス」。

そして、ベトナム戦争。戦死した卒業生たちを讃えるセレモニーのシーンがあるが、今も世界各地で続く局地戦争の現実を思うと、決して過去の出来事とは思えない。

爽やかな後味の中に、ちょっぴり苦味が混じる映画である。

映画レビュー「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

2023、アメリカ

監督:アレクサンダー・ペイン

出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ

公開情報:2024年6月21日 金曜日 より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

公式サイトhttps://www.holdovers.jp

コピーライト: Seacia Pavao / 🄫 2024 FOCUS FEATURES LLC.

配給:ビターズ・エンド

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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