外国映画

映画レビュー「ゴンドラ」

2024年10月31日
谷間を行き交う2台のゴンドラ。乗務員のイヴァとニノは、空中で友情と恋を育んでいく。だが、そんな二人を邪魔する者が!

メルヘンの中に宿る反骨精神

緑あふれる山々に囲まれた小さな村。主な交通手段は谷間を往復する2台のゴンドラだ。イヴァは亡くなった父親の穴を埋める形で、その乗務員として働くことになった。

冒頭、遺体の納められた白木の棺がゴンドラに積まれ、運ばれていくシーンが印象的だ。交通手段であると同時に、ゴンドラは運搬手段でもある。住民にとっては欠くべからざる重要なインフラなのだ。

食料などを空中からロープに吊り下げて届けるなんてサービスもする。いきおい乗務員と村人との関係は密接となる。イヴァは地元の子供たちにも懐かれ、土地にも仕事にも馴染んでいく。

先輩乗務員のニノともたちまち打ち解け、二人は往路と復路、空中ですれ違いながら友情を育んでいく。ファイト・ヘルマー監督は、過去作同様に本作でもセリフを一切使わず、二人の身振りと表情だけで、彼女たちの“会話”を過不足なく表現している。

駅に到着する度に一手ずつ指すチェスの勝負。取った駒をゴンドラ越しに見せつけ、してやったりという表情。片や悔しそうな顔。見てなさいよ!なんてことがすべて視覚だけで伝わってくるのだ。

さらに二人はゴンドラを飛行機風にデザインしたり、船やロケットのように仮装させたり、仕事を思い切り遊戯化し、人生を謳歌していく(やがて二人の関係は友情の域を超えたものへと変質するが、そこも注目!)。

だが、強権的な駅長は彼女たちの逸脱した行動を許さない。ニノにモーションをかけたが、あえなくフラれた恨みもあったろう。徹底的に弾圧しようとするのだ。

しかし、おめおめと引き下がる二人ではない。二人の行動はさらに過激化し、駅長の神経を逆撫でする――。

息を呑むようなジョージアの風景と、空中を浮遊するゴンドラが生み出すメルヘンのような世界。しかし、一皮むけば、横暴な権力が牙をむく。

ファイト・ヘルマー監督は、イヴァとニノの果敢な行動を通して、そんな社会を痛烈に糾弾している。通り一遍のファンタジーとは一線を画す、反骨精神あふれる作品なのである。

ゴンドラ

2023、ドイツ/ジョージア

監督:ファイト・ヘルマー

出演:ニニ・ソセリア、マチルド・イルマン

公開情報: 2024年11月1日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー

公式サイト:https://moviola.jp/gondola

コピーライト:© VEIT HELMER-FILMPRODUKTION,BERLIN AND NATURA FILM,TBILISI

配給:ムヴィオラ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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