メルヘンの中に宿る反骨精神
緑あふれる山々に囲まれた小さな村。主な交通手段は谷間を往復する2台のゴンドラだ。イヴァは亡くなった父親の穴を埋める形で、その乗務員として働くことになった。
冒頭、遺体の納められた白木の棺がゴンドラに積まれ、運ばれていくシーンが印象的だ。交通手段であると同時に、ゴンドラは運搬手段でもある。住民にとっては欠くべからざる重要なインフラなのだ。
食料などを空中からロープに吊り下げて届けるなんてサービスもする。いきおい乗務員と村人との関係は密接となる。イヴァは地元の子供たちにも懐かれ、土地にも仕事にも馴染んでいく。
先輩乗務員のニノともたちまち打ち解け、二人は往路と復路、空中ですれ違いながら友情を育んでいく。ファイト・ヘルマー監督は、過去作同様に本作でもセリフを一切使わず、二人の身振りと表情だけで、彼女たちの“会話”を過不足なく表現している。
駅に到着する度に一手ずつ指すチェスの勝負。取った駒をゴンドラ越しに見せつけ、してやったりという表情。片や悔しそうな顔。見てなさいよ!なんてことがすべて視覚だけで伝わってくるのだ。
さらに二人はゴンドラを飛行機風にデザインしたり、船やロケットのように仮装させたり、仕事を思い切り遊戯化し、人生を謳歌していく(やがて二人の関係は友情の域を超えたものへと変質するが、そこも注目!)。
だが、強権的な駅長は彼女たちの逸脱した行動を許さない。ニノにモーションをかけたが、あえなくフラれた恨みもあったろう。徹底的に弾圧しようとするのだ。
しかし、おめおめと引き下がる二人ではない。二人の行動はさらに過激化し、駅長の神経を逆撫でする――。
息を呑むようなジョージアの風景と、空中を浮遊するゴンドラが生み出すメルヘンのような世界。しかし、一皮むけば、横暴な権力が牙をむく。
ファイト・ヘルマー監督は、イヴァとニノの果敢な行動を通して、そんな社会を痛烈に糾弾している。通り一遍のファンタジーとは一線を画す、反骨精神あふれる作品なのである。
ゴンドラ
2023、ドイツ/ジョージア
監督:ファイト・ヘルマー
出演:ニニ・ソセリア、マチルド・イルマン
公開情報: 2024年11月1日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー
公式サイト:https://moviola.jp/gondola
コピーライト:© VEIT HELMER-FILMPRODUKTION,BERLIN AND NATURA FILM,TBILISI
配給:ムヴィオラ