外国映画

映画レビュー「ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版」

2024年11月7日
純情なジョーダンと小悪魔エイミー。この2人に風来坊グザヴィエが加わり、めくるめくセックスとバイオレンスの世界が展開していく。

地獄へようこそ

L.A.のクラブ。“地獄へようこそ”という暗示的なフレーズが壁に光る。酒やドラッグでハイになっている若者たち。エイミーとジョーダンのカップルも、その狂騒の中にいる。

だが、エイミーにとって、そのクラブは退屈以外の何物でもないようだ。ナンパしてくる男たちに中指を突き立て、汚い罵倒語を吐きつける。美人だが、気が強く攻撃的。そんなエイミーを、大人しく理性的なジョーダンがなだめる。

店を出て車に戻った2人。エイミーが早速セックスを求めるが、ジョーダンはエイズが怖いからと及び腰。「私たち処女と童貞でしょう?」というエイミーのツッコミは眉唾ものだが、ジョーダンの反応もズレている。だが、噛み合わないようでいて、息は合っている。奇妙なカップルだ。

「今夜は胸騒ぎがする」「何かが起こりそう」。不吉な予感にかられる2人の前に、突如として、いかにもヤバそうな男が飛び込んでくる。チンピラたちと喧嘩し、血まみれで逃げてきたその男は、グザヴィエと名乗る流れ者。

エイミーに負けず劣らず攻撃的なグザヴィエは、たちまち彼女と罵り合いを始める。いったんは車から追い出されるグザヴィエだが、ジョーダンとエイミーがコンビニでトラブルに巻き込まれると、その場に駆けつけ、2人を窮地から救う。しかし、同時にコンビニ店長を殺害するという失態を演じてしまう。

図らずも共犯者となったジョーダンとエイミーは、グザヴィエを伴って、逃避行の旅に出る――。

純情なジョーダンと小悪魔風なエイミー。この2人に謎の風来坊グザヴィエが加わり、めくるめくセックスとバイオレンスの世界が展開していく。

まず、セックスでいうと、最初はグザヴィエを毛嫌いしていたエイミーが、やがて彼の誘惑を受け入れ、ジョーダンとの間では味わえなかった種類の快楽に目覚めていく。そんなエイミーの裏切りを知りつつも、嫉妬すらしていないように見えるジョーダンは、むしろグザヴィエとの親密さを増し、やがて2人でエイミーを共有する3Pの関係にまで進んでいく。

グザヴィエという異分子を受け入れることで、ジョーダンとエイミーの性的関係も過激に進化していくのだ。同性愛の描き手として知られるグレッグ・アラキ監督にとって、本作は製作費の獲得を条件に撮った初の異性愛映画。ジョーダンとグザヴィエとの絡みは寸止めしながら、エイミーと2人の男との性的冒険を大胆に描き出し、見る者の官能を刺激しまくる。

一方、バイオレンスの場面は、すべて非現実的に演出され、シュールな笑いを誘う。劇中、エイミーを昔の恋人だと主張する男女が何人も登場するのだが、断固として否定するエイミーをめぐり、グザヴィエらがバトルを繰り広げ、その度に死者が出るというパターンだ。

惨劇なのだが、いずれもスプラッター調。コンビニでの殺人もそうだが、まるで白昼夢を見ているような趣なのである。

こうして、3人はセックスに耽りつつ、度重なる窮地を切り抜けていく。だが、ついに地獄は訪れる。それまでの楽天的なムードは消失し、画面も暗くなり、今度こそ本物のバイオレンスが襲いかかる。グレッグ・アラキの情け容赦ない演出に言葉を失う。

初公開時はカットされた過激なシーンを復元し、デジタルリマスター版でリバイバル公開。30年前の作品ながら、斬新な映像センスに驚かされること間違いなしだ。

映画レビュー「ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版」

ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版

1995、アメリカ/フランス

監督:グレッグ・アラキ

出演:ローズ・マッゴーワン、ジェームズ・デュバル、ジョナサン・シェック

公開情報: 2024年11月8日 金曜日 より、渋谷ホワイトシネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:https://greggaraki-movie.com/

コピーライト:© 1995 UGC and the teen angst movie company

配給:パルコ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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