日本映画

映画レビュー「早乙女カナコの場合は」

2025年3月13日
NEW!
大学に入学したカナコは、演劇サークルの長津田と付き合い始める。しかし、だらだらと留年を続ける長津田に、カナコは業を煮やし――。

切れそうで切れない男女の仲

2014年春、早乙女カナコは念願かなって、東京の有名私立大学に入学した。心弾ませキャンパスに足を踏み入れると、各サークルが新入生勧誘イベントを展開中だ。と、突然、男が女に銃で撃たれ路上に倒れた。

演劇サークル「チャリングクロス」による芝居である。しかし、初心(うぶ)なカナコは真に受け、心配そうに男の手を握る。

次の瞬間、頭上に紙吹雪が降り注いだ。目を開け悪戯っぽい表情でカナコにチラシを手渡した男は、サークルで脚本を担当する長津田。カナコはたちまちこの男と恋仲となり、付き合いが始まった。

バイクでのツーリング。誕生日祝い。お揃いの指輪。楽しい日々が続く。だが、時の流れは速い。カナコは4年生になったが、長津田は留年を続け、将来への展望もない。カナコはそんな長津田に苛立ち、大喧嘩してしまう。

カナコは2年間インターンのバイトをしていた大手出版社にめでたく就職が決まり、仕事を教えてくれていた先輩社員の吉沢から告白もされる。一方、長津田はだらだらとモラトリアム生活を続けつつ、女子大からサークルに入部してきた麻衣子と付き合い始める。

喧嘩して距離ができてしまったカナコと長津田の前に現れる新たな異性。しかし、カナコも長津田も決して互いを見限ったわけではない。そう易々と新しい恋に踏み出せるほど、彼らの心は離れていないのだ。

離れたように見えて離れていない。惚れ切ってしまった男女の、切っても切れない縁。運命的な恋というと大げさになるが、打算抜きでくっ付いてしまった男と女の、何ともしぶとい関係がここにはある。

カナコと長津田のキャラクターがいい。原作タイトルの“早稲女”を具現化したような不器用で生真面目なカナコには、女性も男性も惹きつける力がある。

一方、傲慢で自信家で女好きというイメージの長津田だが、カナコに恋人ができたと聞くと、矢も楯もたまらず現場に駆け付けたり、カナコと縒りを戻すため長髪を切って就職活動を始めたり、なかなか殊勝なところがあって、この人物も憎めない。

そんな二人を取り囲む人々も、それぞれに魅力的だ。カナコに思いを寄せる吉沢。長津田に惚れてしまう麻衣子。かつて吉沢と付き合っていた慶野亜依子。それぞれが真剣に人生を考え、真面目に人を好きになり、傷つきながら、成長していく。カナコも長津田も、彼らとの交流を通して、自分の心を見つめ直し、前に進んでいくのである。

カナコと長津田のラブストーリーであり、自己実現の物語であるが、同時に吉沢や麻衣子らを含んだ群像劇としても、見応えのある作品となっている。

早乙女カナコの場合は

2024、日本

監督:矢崎仁司

出演:橋本愛、中川大志、山田杏奈、根矢涼香、久保田紗友、平井亜門 /吉岡睦雄、草野康太/ のん、臼田あさ美、中村蒼

公開情報:2025年3月14日 金曜日 より、新宿ピカデリー他全国ロードショー

公式サイト:https://www.saotomekanako-movie.com/

コピーライト:🄫2015 柚木麻子/祥伝社 🄫2024「早乙女カナコの場合は」製作委員会

配給:日活/KDDI

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません