「青春 -苦-」(第2部)
中国の縫製工場で働く若者たちを追ったドキュメンタリー3部作「青春」。その第2部にあたるのが「青春 -苦-」だ。2024年に日本公開された「青春-春-(第1部)」同様、10代後半から20代半ばぐらいの青春真っ盛りな男女の生態を、リアルに写し撮った作品である。
朝から晩までミシンと向き合い、次々と子供服を縫い上げる若者たち。出来高払いだから必死だ。サボればその分だけ収入が減る。とは言え、仕事に飽きたらトランプ賭博に興じたり、気のある異性とじゃれ合ったりと、青春のエネルギーを発散することも忘れない。
そんな若者たちと適度な距離を保ちながらも、決して視線を外さないカメラが見事。狙った人物が他の場所へと移動すれば、昇り階段であろうと同じスピードで追いかけ、ピタリと背後につく。いつものことながら、その俊敏な動きに改めて驚かされる。
A地点からB地点まで中断なしのワンカットで記録したら、加工せずにそれを使う。必然的に長尺となる、このワン・ビン独特の方法論が貫かれているからこそ、映像に虚構が侵入することもなく、ドキュメンタリーとしての純度が維持されているのだろう。
「青春 -苦-」というタイトルは、不安定な雇用と経営者の横暴により、若者たちが苦境に追い込まれている状況を指している。
彼らにとって最大の問題は、目前に迫った春節に帰省できるかどうか。当てにした金が得られなければ、大切な春節を家族と過ごすことができなくなるかもしれないのだ。
こなした仕事を記録した帳簿を紛失したため、ワンシャン(男性)は給料がもらえない。社長は、取引先への支払いを拒んだ上、相手を殴り倒し、さらには蒸発してしまった。そんなひどい話がいくつもある。
「青春 -帰-」(第3部)
それでも多くの若者たちは帰省していく。その中にはカップルも多い。恋人同士、夫婦、新婚ほやほや、帰省先で挙式するカップル…。「青春 -帰-」(第3部)は、これらカップルを中心に、帰省する若者たちの人生に焦点を当てる。
見ると分かるように、第2部と第3部はそれぞれの末尾と冒頭が内容的にディゾルブしたような構成になっていて、第2部にはすでに帰省するカップルの映像が見られる。
そのうちの一組がシャオウェイ(男性)とイーチュン(女性)のカップル。本作の登場人物の中でも最も気になるこの二人は、一見アツアツな恋人同士に思えるが、イーチェンの発する言葉のトゲが、シャオウェイの心を刺すような場面もしばしば。何となく危うさを感じさせるカップルだ。春節が終わり織里に戻ってきた二人が再登場し、厳しい現実に直面する終盤の展開は見ていて辛いものがある。
第3部から登場するフェイ(男性)とミンイェン(女性)の夫婦も印象的だ。満員列車の通路に座り、雪の残る狭い崖道を車で走り、ようやく二人の郷里へ。列車の中で抱き合いながら寝た二人の愛は疑いもなく深いのだが、フェイの家族からはある理由で結婚に反対されていた。フェイに強く求められて一緒になったものの、今は将来への不安で一杯。ミンイェンはそんな自分の思いを、カメラマンに向かって吐露する。
このミンイェンに限らず、「青春」3部作に登場する人物は、誰もが実に無防備に思いを語り、自由に行動する。ワン・ビン独特のスタンスが、相手の警戒心を解いているのだ。
しかも、彼らの口から出てくる言葉は、中国が抱えているさまざまな問題をあからさまに開示してしまっている。インバウンド客として来日する富裕層を見ていては分からない中国のリアルを、彼らの行動や言葉がはしなくも露呈させてしまっているのだ。ワン・ビン作品が中国国内で上映されないわけである。
『青春 -苦-』(第2部)/『青春 -帰-』(第3部)
2024、フランス/ルクセンブルク/オランダ
監督:ワン・ビン
公開情報: 2025年4月26日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー
公式サイト:https://moviola.jp/seishun/
コピーライト:© 2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
配給:ムヴィオラ