先住民の視点に立った物語
ボリビアの人口の過半数を占める先住民の存在を重視する若者たちが、1962年に集団で映画製作を開始した。白人のホルヘ・サンヒネスを中心に、白人とメスティソ(白人と先住民との混血)でスタッフを構成、先住民をキャスティングし、彼らの視点に立った物語を撮り始めたのだ。
長編第1作「ウカマウ」が高く評価されると、彼らは「ウカマウ集団」と名乗り、次々と作品を生み出していく。「長回しを多用し、スペクタクルを排除し、クロースアップをできるだけ避ける」。自らに課したルールにより、独特のスタイルを持つことになったウカマウ作品は、同時代に登場したヌーヴェルヴァーグとともに、世界の映画人に強烈な影響を与えた。
日本との縁も深く、本企画を主宰する日本人スタッフは、1975年に彼らと出会って以来、上映会の収益を彼らの製作資金に回すなど、積極的に映画作りをサポートしている。
今回の特集では、以下の新作2本を含む全14作が一挙に上映される。
「女性ゲリラ、フアナの闘い ―ボリビア独立秘史―」
スペインに支配されていたボリビアが、独立をかけて戦った解放闘争。その先頭に立ってゲリラ軍を率いたフアナ・アスルドゥイの物語である。
冒頭、司令官ランサに案内されフアナの家を訪れるのは、シモン・ボリーバルとアントニオ・ホセ・デ・スクレ。
ボリーバルは南米大陸北部の植民地解放闘争を率いた人物で、ボリビアの国名は彼の名前が元になっている。一方のスクレも解放闘争のリーダー的存在で、ボリビアの初代大統領となった人物だ。
その日はボリビアが独立を果たした記念祝典なのに、解放闘争の英雄であるフアナが姿を見せないため、大御所の二人が足を運んだのだ。
独立の直前まで王党派にすり寄っていた者たちが主宰する式典には参加したくないと言うフアナは、自分が闘った闘争がどのようなものだったかを二人に話し始める――。
フアナが闘争に加わった経緯、植民地主義者との熾烈な闘い、ゲリラ司令官だった夫や子供たちの死。勝利を手にするまでの苦難の道のりが、特撮やカットつなぎのテクニックに頼らない正攻法の演出によって、リアルに再現されていく。
一時の勝利に酔うことなく、真の独立を妨げている者たちの存在など、冷静に状況を分析してた上でボリーバルに対応するフアナの姿が凛々しく、美しい。
「30年後 ―ふたりのボリビア兵―」
戦場で出会った白人兵ギレェルモとインディオ兵のセバスティアン。負傷したセバスティアンをギレェルモが助けたことから、二人の間に友情が芽生える。しかし、上官の人種差別に抗議したギレェルモは軍法会議で死刑を宣告され、投獄されてしまう。
もはやこれまでと思われたが、ギレェルモは何とか脱走に成功。セバスティアンも同行する。やがて戦争は終わり、再会を約束し別れた二人は、それぞれの人生を歩み始める。
1932年から35年にかけて、ボリビアと隣国パラグアイが戦火を交えたチャコ戦争が、前半の舞台となっている。水も食糧もない中での消耗戦の悲惨さ、一時休戦して対面し名乗り合う兵隊たちが、みな農民ばかりという不条理。貧しい者たち同士が殺し合いを強いられているのだ。
この戦争体験はセバスティアンに少なからぬ影響を与えたはずだ。貧しい農村出身のセバスティアンは、富裕層出身で教養もあり、インディオの文化を尊敬するギレェルモから多くを学び、戦後は革命運動に身を投じていく。
インディオの女性と結婚し、田舎で静かに暮らすギレェルモと、革命運動の先頭に立って英雄となるセバスティアン。二人の人生が通念とは異なる形で分岐する。そのドラマチックなストーリー展開に興奮し、エンディングに胸を締め付けられた。
女性ゲリラ、フアナの闘い ―ボリビア独立秘史―
2016、ボリビア
監督:ホルヘ・サンヒネス
出演:メルセデス・ピティ・カンポス、クリスティアン・メルカード、ホルヘ・イダルゴ、フェルナンド・アルセ
30年後 ―ふたりのボリビア兵―
2022、ボリビア
監督:ホルヘ・サンヒネス
出演:クリスティアン・メルカード、ロベルト・チョケワンカ、ヴァルキリア・デ・ラ・ロチャ、モニカ・ママニ
公開情報:2025年4月26日 土曜日 より、新宿K’s cinema他全国ロードショー
公式サイト:https://www.jca.apc.org/gendai/ukamau/
配給:シネマテーク・インディアス