不倫愛に溺れる男女、巻き込まれる若い女
男の朝は早い。日が昇る前に起床。そそくさと朝食をすませ、逃げるように出勤していく。
男は妻から浮気を疑われ、あれこれ詰問されている。そんな妻と向き合っている時間は耐え難い。決して多忙ゆえの早朝出勤ではないのだ。
男の名はボンワン。小さな出版社の社長である。愛人だった従業員が退職し、今は一人きり。
そこへ、大学を出たばかりのアルムという女性が新人として入社してくる。ひと目でアルムを気に入ったらしいボンワンは、さっそく昼食に誘い、早くも口説きモードに。
決してハンサムではないが、評論家の顔も持つインテリ中年。ミーハーな女なら簡単に落ちるのかもしれない。
だが、アルムは小説家志望で、少しばかりとんがったところがある。議論を吹っ掛けられたボンワンはたじたじだ。
すらっとした美人。だが、恋愛対象としてはちょっと無理があるかも。ところが、突然、会社に乗り込んできたボンワンの妻は、アルムを見るなり、平手打ち。愛人と勘違いしたのだ。
早くも会社に愛想を尽かし、即日退社を申し出るアルムを、ボンワンは引き止める。と、そこにひょっこり現れたのが、別れたはずの愛人チャンスク。たちまち焼けぼっくいに火が付いた。
一転して邪魔者となったアルムに、ボンワンは退職を持ちかける。
現金な男である。身勝手この上ない。妻や、新入社員の気持ちなどお構いなし。自分の欲望を満たすことしか眼中にない好色な男。
だが、このボンワン、軽薄なプレイボーイというわけではない。チャンスクを本気で愛していたらしいことが、回想シーンで描かれているのだ。
妻やアルムへの態度を見る限り女の敵。だが、愛人との関係は真剣。なので、簡単に断罪するわけにはいかない。
この点は、本作の監督であるホン・サンス自身が、アルム役のキム・ミニと不倫関係にあるという事実が、どうしてもダブってくる。
ともあれ、ホンワンのチャンスクへの気持ちは観客には分かるが、アルムがどこまで見抜いていたかは不明だ。
帰りのタクシーで、闇夜に降りしきる雪を眺めながら、思いにふけるアルムの表情は何を物語っているのか――。
エピローグで、アルムはボンワンと再会する。ウィットの利いたエンディング、そして深い余韻。“コミカル”と“シリアス”を絶妙に配合したホン・サンス独特の世界が、モノクロ映像の中で、至高の輝きを放つ。
それから
2017、韓国
監督:ホン・サンス
出演:クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、キム・セビョク、チョ・ユニ、キ・ジュボン、パク・イェジュ、カン・テウ
公式サイト:http://crest-inter.co.jp/sorekara/
コピーライト:© ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他
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