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映画レビュー「シャルロット すさび」

2018年10月4日
パリに住む人妻、異形のパフォーマー、自殺した妻。3人の女の間で揺れながら、男は時空を超えた“ノスタルの旅”に出る。

エロスとメルヘンに彩られた不思議な旅

くっきりしたモノクロの映像。そこに展開されるリアルとシュールの世界。映写が始まるや、魔法にでもかけられたように、スクリーンから目が離せなくなる。不思議な映画である。

主人公として登場するのは、パリで暮らす日本人パフォーマー、K。彼は、公演に使うガラス板を買うために訪れたガラス店で、魅力的な女主人、明子に出会う。

フランス人の夫や子供とともに、一見幸せな生活を送っていた明子だったが、後日、Kからの誘いに応じ、恋愛関係に陥る。

一方、Kは路上でパフォーマンスを演じるシャルロットという異形の女性に魅了される。シャルロットはKの夢の中にしばしば現れるようになる。

Kは、妻のスイコを自殺で失っていた。ガラス板に乗り、足を踏み外し、首を吊る……。Kが使うガラス板。その意味が、この記憶のフラッシュバックによって観客に明かされる。

明子、シャルロット、スイコ。Kは3人の女性の間で揺れながら、明子とともに旅へ出る。それは生前のスイコが望んでいた“ノスタルの旅”(ノスタルジーの旅)だった。

ふたりがたどり着いたのはF県。廃村と化したその土地には、老人と孫娘がふたりきりで暮らしていた。ところが、孫娘の顔は老女そのもの。心は子供だが、肉体は老人なのだ。このあたり、もはや通常のロジックは通用せず、現実と幻想との境目は消えている。

F県の廃屋で繰り広げられるKと明子とのセックス場面は、本作のハイライトの一つだろう。グラス6つで支えたガラス板。その上に乗って激しく交わる。そんな彼らの姿をカメラはガラス越しに下から映し出す。エロティックで、スリリングで、パラノイアックな映像に、思わず息をのむ。

その後、老人と孫娘も伴い、4人はパリで悪徳興行主の手からシャルロットを救い出す。しかし、激怒した興行主が核のボタンを押し、町は消滅。脱出した5人は、ある場所にたどり着く。

ここで始まる新生活から、映像のタッチが変わり、画面もモノクロからカラーに転じる。そして起こる驚愕の出来事。

時空を超えたノスタルの旅。そのエンディングが物語るものは一体何か?

ひとりの男が現実と幻想と夢の間をさまよい、自らの存在理由や、世界の行く末などについて、思いを巡らしていく。そういう映画として見ることもできるだろう。

だが、それは飽くまで映画を見終わって、「そういうことかな?」と愚考してみた結果、浮かんだ感想にすぎない。

映画は、そんな観念や解釈などどうでもよいとばかりに、ひたすら鮮烈な映像を見る者の目に投げかけてくる。神話、悲劇、メルヘン……。一言には収まらない、自由で奔放、そして荘厳でもある、巨大な作品だ。

舞踏家であり映画監督でもある岩名雅記が、「うらぎりひめ」(2012)から6年ぶりに発表した新作。Kを演じた成田護とシャルロット役のクララエレナ・クーダが劇中で披露する素晴らしいパフォーマンスにも注目したい。

シャルロット すさび

2017、日本・フランス

監督:岩名雅記

出演:クララエレナ・クーダ、成田護、高橋恭子、大澤由理

公開情報: 2018年10月6日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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