外国映画

映画レビュー「世界で一番ゴッホを描いた男」

2018年10月17日
ゴッホの複製画を描き続けてきた男が、オランダで初めて本物を目にし、衝撃を受ける。職人から芸術家へ。男は決意を胸に帰国する。

レプリカ職人から本物の芸術家へ

ゴッホの複製画を描くことを生業(なりわい)としている男を追ったドキュメンタリー映画である。

画集やテレビでしかゴッホの絵画を見たことのなかったレプリカ職人。オランダ人のバイヤーからの誘いでアムステルダムに渡って、初めて本物に接し、衝撃を受ける。

色が全然違う。入念にコピーしてきたつもりだったが、印刷物と実物とは大違いだった。そのショックが、男の芸術家魂に火をつける。

ゴッホの描いたカフェを発見するや、「あの絵のままだ」と興奮し、その場でキャンバスを立て写生を始める。

生活のために複製画を描き続けてきた。これからは自分のオリジナルを描こう。男は決意を胸に帰国する――。

 

中国・深圳市近郊の大芬(ダーフェン)村。世界で流通する複製画の半分がここで生産されているという。多数のスタッフが分担しながら、ゴッホの複製画を制作している風景は、日本のアニメ制作現場を彷彿とさせる。

スタッフはみな地方からの出稼ぎ者らしい。美術学校どころか、主人公の男は家が貧しく小学校しか行っていない。そのことが、大きなコンプレックスとして、男を苦しめている。

だが、独学で身につけたテクニックは確かだ。自分の手になるレプリカが世界中に流通しているという自負もある。だからこそ、本物を見たいという気持ちは、人一倍強かったろう。

渡欧には多くの出費が伴う。妻は後ろ向きだ。それを懸命に説得し、何とか夢を叶える。

生活のこと、息子の教育のこと。芸術と人生との両立に苦闘する男の姿は、シリアスであったりユーモラスであったり。

自作の複製画がアムステルダムの土産物屋で売られているのを見て落胆する様子は、さすがに気の毒。しかも、値段はバイヤーから受け取っていた額の8倍。買い叩かれていたことに初めて気づいた。

思わず感情移入してしまう、愛すべきキャラクター。そんな主人公の素顔に迫り、本音を語らせ、人生の転機を迎える瞬間を切り取って見せた、渾身のドキュメンタリー。文句なしの傑作だ。

『世界で一番ゴッホを描いた男』(2016、中国・オランダ)

監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ

2018年10月20日(土)より、新宿シネマカリテ、伏見ミリオン座他全国ロードショー。

公式サイト: http://chinas-van-goghs-movie.jp/

コピーライト:© Century Image Media (China)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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