隣人トラブルから死のバトルへ
舞台は、隣同士の二軒の家。連棟式の、いわゆるテラスハウスである。一方の庭には大木が生えていて、他方の庭のポーチに影を落としている。この影をめぐって二組の夫婦が反目し合い、憎しみ合い、はては殺し合う――。
一種のサスペンス映画と言えるが、発端は隣人同士のありがちなトラブル。日常生活での些細な衝突が、ふとした弾みでエスカレートし、凄惨な結末へと至るプロセスが、北欧映画らしい静かな狂気を孕(はら)んだ、ブラックコメディへと仕立て上げられている。
影を落とす側に住むのは、インガとバルドウィンの老夫婦。落とされる側には、エイビョルグとコンラウズの中年夫婦。
中年夫婦のクレームを受けて、バルドウィンは前向きに対応しようとする。だが、ポーチに寝そべり、これ見よがしに日光浴を楽しむエイビョルグに、日頃から反感を抱いているインガは、頑として譲ろうとしない。
こうと決めたら、テコでも動かない性格。そのうえ、猜疑心が強い。本作のキーパーソンとなるインガの動向に要注目である。
ある日、インガの可愛がっている猫が姿を消す。隣家の仕業と決め込んだインガは、監視カメラを設置して、隣家の動きを窺う。
その後、インガのとる行動には、思わず背筋が凍る。超えてはならない一線を、いとも簡単に超えてしまうインガ。今度は、中年夫婦が復讐の狼煙を上げる。こうして、両家のバトルは急速にボルテージを上げていく。
ところで、2組の夫婦の間で展開するこのバトル、実は巻き添えを食ってしまう人物が一人いる。老夫婦の息子アトリだ。なぜ、彼が災いに巻き込まれる羽目に陥るかは、本作の冒頭に描かれている通り。自業自得というべきか。
激しいバトルの結末、そしてバトル後に訪れる皮肉なエンディング。動と静の対比も鮮やかに、見事なフィナーレである。
隣の影
2017、アイスランド/デンマーク/ポーランド/ドイツ
監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン、エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル、シグルズール・シーグルヨンソン、ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル、セルマ・ビヨンズドッテル、ソウルステイン・バックマン
公開情報: 2019年7月27日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー
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