イベント・映画祭日本映画

第20回東京フィルメックス「ふゆの獣」

2019年12月8日
半同棲生活を送る男と女。そこに割り込んでくる女。その女に恋する男。男女4人の入り乱れる恋愛を、徹底したリアリズムで描く。

リアリズムで描く生々しい恋愛劇

※本映画祭の歴代受賞作人気投票で第2位に選ばれ、特集上映された「ふゆの獣」(2010)。2011年公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

一人の男に執着する女。その女と関係を維持しつつ、別の女にも手を出す男。その男に夢中になってしまった女。その女に恋を告白するがあっさり拒絶される男。男女4人の息づまる恋愛劇を徹底したリアリズムの手法で描いた「ふゆの獣」。

ユカコ(加藤めぐみ)とシゲヒサ(佐藤博行)は職場の同僚だ。半同棲生活を送っている。しかし、シゲヒサは最近サエコ(前川桃子)とも関係を持ち、ユカコの干渉を煩わしく思っている。

そんなシゲヒサの異変にユカコは気づいてはいるが、シゲヒサへの執着を断ち切れない。一方、シゲヒサの部下であるノボル(高木公介)は、同僚のサエコに恋心を抱いていたが、サエコがシゲヒサに夢中なのを知り、絶望に打ちひしがれる。

二人の女を支配しようとするシゲヒサ。シゲヒサを手放したくないユカコ。シゲヒサへの愛をエスカレートさせるサエコ。一途な思いを拒まれるノボル。ユカコとシゲヒサの関係に、ユカコがからんで三角関係となり、さらにユカコへの共感者としてノボルが加わり、収拾のつかない事態を招いていく。

ユカコは、シゲヒサとの関係で悩む自分を慰めてくれたノボルと、一夜をともにする。翌朝、ラブホテルを出てそのまま出勤したユカコは、屋上に上がり、ペットボトルの水をタオルに浸し、首、脇の下、背中などを念入りに拭き清める。なるほど、浮気した女はこうするものか……。リアルな描写に感心させられる。

すべてのカット、すべてのシーンが非情なまでのリアリズムに貫かれている。恋愛にのめり込んだ男女特有のしぐさ、表情、会話。すべてがドキュメンタリーのような迫真の表現となり得ており、演技なのか素なのか見当がつかないほどだ。4人の俳優にはプロットのみ渡し、演技は即興に委ねたそうだが、その生々しさは息をのむばかりだ。

圧巻は、シゲヒサのアパートに4人が鉢合わせしてしまうシーン。動揺、嫉妬、激昂、錯乱……。4人の感情が衝突し、摩擦を起こし、爆発し、狭い部屋はまさに修羅場と化す。なじられるシゲヒサの支離滅裂な応酬や、おとなしかったノボルの破壊的行動に思わず笑ってしまう。

このシーンはコメディである。リアリズムを突き詰めた結果としてのコメディ。計算して演出しても、ここまで笑わすことはできないだろう。

エンディングは、荒涼たる風景の中での逃走と追跡。「ふゆの獣」が息も絶え絶えに“獲物”を追う姿をとらえた移動撮影が素晴らしい。

第11回東京フィルメックス最優秀作品賞受賞作。

ふゆの獣

2010、日本

監督:内田伸輝

出演:加藤めぐみ、佐藤博行、高木公介、前川桃子

公式サイト:http://www.makotoyacoltd.jp/loveaddiction.jp/

コピーライト:© 映像工房NOBU

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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