日本映画

映画レビュー「カゾクデッサン」

2020年3月19日
別れた妻が交通事故で意識不明に。息子から見舞いを求められた剛太は、十数年ぶりに妻と再会。秘められた真実が明かされる。

家族の創生、再構築を描く

元ヤクザの剛太は、恋人の美里が経営するバーで働いている。働いているといっても、常連客と酒を飲むばかりで、ほとんど美里におんぶに抱っこの状態だ。

ある日、そんな剛太のもとに、中学生の少年が訪ねてくる。別れた妻・貴美の息子・光貴である。剛太とはほぼ初対面のようだ。

貴美が交通事故に遭って意識不明の状態にある。剛太が声をかければ意識を取り戻すかもしれないので、見舞いに来てほしいと言うのだ。

十数年ぶりに再会した元妻に、「お前、何やってんだよ。目を覚ませ。起きろ、貴美」と声がけする剛太。傍らにいる夫の義治は複雑な表情だ。

「何で連れてきたんだ。あいつは元ヤクザ。人間のクズだ」と光貴を叱る義治。不満気な光貴。

いかにも真面目そうな父親とは対照的な剛太に、光貴は惹かれるものを感じている。光貴は剛太と過ごす時間が楽しみになる。

だがある日、光貴は、自分の出生の秘密について、父が母に話しているのを立ち聞きしてしまう。

動揺した光貴は、荒れた感情を抑えきれず暴力に走る。見かねた剛太は、「本当の暴力ってやつを教えてやる」と光貴を神社の境内に連れ出し、殴る蹴るの暴行を加える――。

本当の父親は別にいた。恋人には子供がいた。突然、浮上した真実が、一組の夫婦、一組のカップル、そして一人の少年の心をかき乱す。

真実を受け入れた上で、新しい関係を構築していく父と子。本当の秘密を隠し、偽りの真実を守り抜くことで、幸福を実現しようとする男と妻たち。

本作は、痛みや悲しみを克服し、前に向かって歩んでいくための処方箋と言えるかもしれない。

 

必要なのは、事実を受け入れる勇気と度量。そして、嘘をつき通す意志と誠実さだ。一言で言えば愛である。愛のある人々が一緒になることで、家族が生まれる。それは血縁を超えた親密な関係である。

最近は家族の崩壊や破綻を描く悲観的な映画が多かったように思うが、これは家族の創生、再構築を描く、楽観的な作品。

そんな作品のムードを支えているのが、主役の剛太だ。水橋研二というと、個人的には「月光の囁き」(99)の印象が強烈で、受け身の弱々しい男というイメージがあった。

だが、本作では、腕っぷしの強い、男気のある人物を絶妙に演じていて、改めてその卓越した演技力に感心させられた。

映像も素晴らしい。バー、病院、マンション、学校、歩道橋と、それぞれの空間を生かしたカメラワークが巧み。滞りなくストーリーを展開させるとともに、人物の心理を説明抜きで描写することに成功している。

剛太と光貴が病院に入るところを俯瞰でとらえたカメラが、病棟の窓から病院内に入り、廊下を進み、彼らの向かう病室へと移動するワンカット撮影など実に見事。

また、剛太の秘密に関わる過去の出来事が、剛太の脳裏に蘇る記憶として現れる場面の視覚的処理も上手い。

いずれも、映画的描写の真骨頂であり、映像作品としての本作のクオリティを押し上げている。傑作である。

映画レビュー「カゾクデッサン」

カゾクデッサン

2019、日本

監督:今井文寛

出演:水橋研二、瀧内公美、大友一生、中村映里子、大西信満

公開情報: 2020年3月21日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:http://kazokudessin.com/

コピーライト:© 「カゾクデッサン」製作委員会

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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