日本映画

映画レビュー「TOKYO TELEPATH 2020」

2020年10月9日
2年後にオリパラを控える東京に、「結界を正す」という使命を負い、少女が降り立つ。そんな彼女に、別の少女がコンタクトを図る。

オリパラ前の東京めぐるSF映画

2018年、オリパラを2年後に控えた東京。一人の少女が“本部”から呼び出され、この大都市へと降り立つ。五輪開催に向けて「東京の結界を正すこと」が、彼女に課せられたミッションだ。

結界? どういう意味か調べてみたが、難解でよく分からない。俗と聖との境目といったところだろうか。要するに、オリパラに向けて拍車がかかる都市再開発が、東京の結界を不安定にしているので、それを正常化せよということなのだろう。

キョンという名のこの少女は、東京のあちこちを飛び回りながら、これも意味のよく分からない“フュージョン率”なるものを測定し、本部に向けて東京の進化状況をレポートしていく。

本作には、さらにもう一人の少女が登場する。キョンを来たるべき“黄金の夜明け”へと導くべく派遣された超能力少女だ。彼女は空飛ぶ自転車にまたがって、東京中を走りまわり、テレパシーを用いてキョンへのコンタクトを試みていく。

東京タワー、レインボーブリッジ、新宿の地下街、オフィス街、駒沢オリンピック公園……。観客は、移動する二人の少女たちとともに、都内のさまざまな場所を巡っていくことになる。

東京を撮った映画としては、クリス・マルケルの「サンソレイユ」(83)やヴィム・ヴェンダースの「東京画」(85)といったドキュメンタリーが有名だ。それらは異邦人の目によって再発見された東京像という趣だった。

本作もすべてロケ撮影だという点で、一種のドキュメンタリーとは言える。だが、どこか異界からやってきた少女の東京探訪というSF的な設定によって、現実の記録という縛りから解き放たれ、奔放なイメージや思考を飛翔させることに成功している。

盲目のサックス奏者、ライブハウスのミュージシャン、ブラインドサッカーに興じる青年……。キョンのミッションとは関係なさそうな対象に格別強い視線の注がれているのが印象的だ。

広大な地下道に権力が隠してきた秘密、複雑な地下鉄路線と皇居の存在、そして、そもそもオリパラを開催する目的についても言及される。もしかしたら、これらが東京の“結界”を乱している正体なのだと言いたいかのように。

本作は2020年の今年に東京オリパラが開催されることを前提に製作された。コロナという伏兵が現れようとは、よもや想像もしていなかったろう。

その中で本作が闇に葬られなくて本当によかったと思う。「何が起ころうと、東京は私が守る」。ヒロインの決意はきっと一年後も有効だろう。

TOKYO TELEPATH 2020

2020、日本

監督:遠藤麻衣子

出演:夏子、琉花

公開情報:2020年10月10日(土)~10月30日(金)、シアター・イメージフォーラムにて21:00より限定上映。期間中、遠藤監督の過去作『KUICHISAN』、『TECHNOLOGY』も上映。10月10日(土)は、上映後に遠藤監督と主演の夏子によるトークイベントあり。

公式サイト:https://www.kuichi-tech2020.com

コピーライト:© A FOOL

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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