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第21回東京フィルメックス 観客賞「七人楽隊」

2020年11月18日
ジョニー・トーが、ツイ・ハーク、アン・ホイなど6人の監督に呼びかけ、製作した、香港の歴史をたどるオムニバス作品。

香港映画を代表する7人が参集

今年から東京国際映画祭と連携し、ほぼ同時期に開催することになった東京フィルメックス。相乗効果もあってか、コロナ禍をものともせず、連日、熱烈なシネフィルが来場し、選りすぐりの作品群を堪能した。

そんな筋金入りの映画ファンが今年のベスト1に選んだのが、特別招待作品の「七人楽隊」である。

同作は、1950年代から近未来までの香港を舞台にしたオムニバス作品。ジョニー・トー監督の呼びかけに、ツイ・ハーク、アン・ホイ、サモ・ハンなど、香港映画界を代表する監督たちが参集し、腕を競い合った。

オープニングを飾るのは、サモ・ハンの「練功」。屋上でカンフーの訓練を受ける子供たちを描いた作品だ。逆立ち、ブリッジ、宙返り……。

サモ・ハンの自伝的作品であろう。長時間休みなしの厳しいトレーニング。音を上げたサモ・ハンらしき子供が、師匠の目を盗んでサボるも、たちまち発覚し、ペナルティとしてさらに過酷なメニューが課せられる。

サモ・ハンの並外れた体術の源泉を明かすとともに、活動写真としての映画の醍醐味を満喫させてくれる好編。

続く「校長」は、ガラリと趣を変えて、紅一点のアン・ホイらしい情感漂う作品だ。元校長が女性教師の思い出にふける。

やさしく、美しく、子供たちに慕われていた女性教師。授業中に失禁した生徒を見つけるや、おもむろに近づくと、床に水をこぼして、生徒の窮地を救う。誰もが憧れる、理想の先生だ。

しかし、佳人薄命。元校長は、病弱だった女性教師が他界したことを同窓会で知らされる。淡い恋の記憶をノスタルジックに綴った名品である。

ほかにも、株の売買で一攫千金を目論む若者たちを描くジョニー・トーの「遍地黄金」、香港の激変に当惑する男のアクシデントを描くリンゴ・ラムの遺作「迷路」など、それぞれの持ち味を生かしたテーマ設定で、見ごたえある香港ストーリーを見せてくれる。

トリをつとめるのは、近未来の精神病院を舞台にしたツイ・ハークの「深度対話」。医師と患者とのチグハグな対話を観察する医師、さらにそれを観察するスタッフと、何重もの観察構造で描く、ナンセンスなコメディ。本作の監督たちも巻き込み、思いきり遊びに徹した、いかにもツイ・ハークらしい作品に仕上がっている。

七人楽隊

2020、香港

第1話「練功」

監督:サモ・ハン
出演:ティミー・ハン

第2話「校長」

監督:アン・ホイ
出演:ン・ジャンユー、マー・サイ

第3話「別夜」

監督:パトリック・タム
出演:ジェニファー・ユー、イアン・ゴウ

第4話「回帰」

監督:ユエン・ウーピン
出演:ユン・ワー、アシュリー・ラム

第5話「遍地黄金」

監督:ジョニー・トー
出演:ン・ウィンツェ、トニー・ウー、エリック・ツイ

第6話「迷路)

監督:リンゴ・ラム
出演:サイモン・ヤム、ミミ・コン、ラム・ユーヒン

第7話「深度対話」

監督:ツイ・ハーク
出演:チョン・ダッミン、エモーション・チョン、ラム・シュー、ローレンス・アーモン

公式サイト:https://filmex.jp/2020/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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