外国映画

映画レビュー「コレクティブ 国家の嘘」

2021年10月1日
火災を生き延びた負傷者が、病院で次々と命を落とした。何故か? スポーツ紙が暴いた、恐るべき国家的犯罪の全容に迫る。

人命と引き換えに暴利を貪る

2015年10月30日、ルーマニアの首都ブカレストのクラブ「コレクティブ」で、ライブコンサート開催中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となった。

これだけでも十分に大事件だが、さらなる問題が発生する。複数の病院に運ばれた負傷者が、次々と死亡していったのだ。最終的な犠牲者は64名。

重体のため、必死の治療も空しく亡くなった――。というのなら分かる。しかし、負傷者たちの大半は、入院した時点で致命傷には至っていなかった。普通に治療すれば死ぬわけがない。いったい何が起きたのか?

不審に思ったスポーツ紙は調査を開始。そして、大学病院の麻酔医から驚くべき証言を得る。

事件を追う記者たちに同行するカメラが、製薬会社と病院経営者、そして政府関係者による国家的犯罪を、ドキュメンタリーならではの緊迫感あふれる映像の中に露呈していく。

希釈した消毒液。緑膿菌の蔓延。感染症。そして死。患者の膿(う)んだ傷口に蛆(うじ)が湧く映像に、思わず目を背ける。

人間の所業ではない。金の亡者と化した怪物たちが、他人の命と引き換えに暴利を貪(むさぼ)る。記者たちに追及されても、決して罪を認めず、嘘を吐き続ける厚顔無恥さは、わが国の政治家や官僚の姿とも重なり、嫌悪感を禁じ得ない。

不都合な真実を暴こうとすればするほど、陰湿な反撃も受ける。脅迫を受けながらも、屈することなく追及の手を緩めない記者たちのジャーナリスト魂に喝采を送りたい。

報道は世論を動かし、政府は倒れる。新任の保健相は、腐敗した行政システムを変えるべく、力を奮う。ところが――。

根腐れした政治の刷新は容易ではない。悪行が白日の下に晒(さら)されてもなお生き永らえる、そのしぶとさ、しつこさ。その原因が国民の政治的無関心さにあることを示唆し、重い空気を漂わせたまま、映画は終わる。

邪(よこしま)な権力者を喜ばせるのは、国民の政治離れである。改めてそのことを思い知らせてくれる映画だ。

映画レビュー「コレクティブ 国家の嘘」

コレクティブ 国家の嘘

2019、 ルーマニア/ルクセンブルク/ドイツ

監督:アレクサンダー・ナナウ

出演:カタリン・トロンタン、カメリア・ロイウ、テディ・ウルスレァヌ、ヴラド・ヴォイクレスク

公開情報: 2021年10月2日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国ロードショー

公式サイト:https://transformer.co.jp/m/colectiv/

コピーライト:© Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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