世界の現実を体感
アンドレアスとドミニク。二人の若者が、母国オーストリアから一文字違いの国オーストラリアまで、自転車の旅を決行する。その距離1万8000キロ。11カ月に及ぶ長丁場である。
本作は、その一部始終をドキュメンタリー映画としてまとめた作品だ。仲のよい友人二人きりの冒険旅行。かつてならカメラマンをはじめ、複数の撮影クルーが同行していたことだろう。
だが、本作は、文字どおりの二人旅。撮影は小型カメラやドローンを使って自ら行ったそうだ。テクノロジーの進歩は、映画の製作をどんどん簡略化していく。実に素晴らしい。
しかし、二人はIT企業で働く一般人。映画の撮影については“ど素人”である。過酷なコースを走行しながら、撮影するのは決して容易なことではなかった。
冒頭、映し出されるのは土砂降りの光景である。幸先の悪いスタートだ。先に進むだけで精一杯だったのだろう。オーストリアからスロバキア、ハンガリー、ルーマニアと、全行程の中では楽なコースと思われるパートの映像は、ほぼ欠落しており、場面はいきなりロシアへと飛ぶ。
一発勝負の“ロケ撮影”にやり直しはなく、アクシデントが起これば、そのまま記録されていく。
ロシアで2500キロを走り抜けた後は、カザフスタンの灼熱地獄。ドミニクが脱水状態となり、やむなくトラックに乗せてもらう。生死の問題だ。自転車旅という原則にこだわってはいられないのだ。
同じくドミニクが膝を痛めペダルをこげず、病院でしばらく休養をとる場面や、急遽入国許可が出なくなり飛行機移動を余儀なくされる場面も、ありのままに開示されている。ヤラセなし。愚直なまでに正直なドキュメンタリーなのだ。
襲い来る蚊や、群がる蠅。喉の渇き。オーストリアでは考えられない自然の脅威が、ときに二人の冒険心を萎えさせる。
しかし、一方で、地元の人々から食事に招かれ、結婚式に呼ばれ、大宴会を催してもらうなど、温かいもてなしが、彼らの心に潤いを与える。
苦難の中に、楽しみ、喜び、感激、感動が散りばめられた、等身大の手作り自転車ロードムービー。オーストリア同様、一応は先進国の日本で暮らす我々にとって、途上国の現実を垣間見ることのできる貴重なフィルムでもある。
オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険
2020、オーストリア
監督:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
公開情報: 2022年2月11日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/austria2australia/
コピーライト:© Aichholzer Film 2020
配給:パンドラ