日本映画

映画レビュー「光復」

2022年12月8日
両親の介護に明け暮れ人生を空費した女性が、さらなる過酷な運命に翻弄される。ボロボロになった彼女が行き着いた先は――。

相次ぐ災難の果てに

大島圭子は母親と二人暮らしの独身女性だ。母親は重度の認知症を患っており、その世話に人生の大半を費やしてきた。

東京の大学を出て東京で働いていたが、父親が病気で要介護となり長野へ帰郷。父親を看取った後、今度は母親が発病してしまったのだ。

両親の介護で青春を棒に振った。何のために生きているのか分からない。「死にたい」。市役所の職員にもらす言葉にはリアリティがある。

そんな圭子に救いの手が差し伸べられる。母親が徘徊し、大騒ぎになった際に、再会した高校時代のボーイフレンド、横山賢治。

圭子の窮状を見かねた賢治は、昔のよしみもあり、仕事の合間を縫って圭子の家に通ってくるようになる。

ほどなく焼け木杭(ぼっくい)に火が付く。二人は介護の合間を縫って愛し合うようになった。賢治には妻子がいたが、辛酸を嘗めてきた圭子にとって、それは大した問題ではなかったろう。

明るさを取り戻した圭子。バイトに出る余裕もできた。顔つきも明るくなった。ところがある日、外出から戻った圭子を待っていたのは――。

地獄から脱け出し、ようやく人並みの幸福を味わえると思ったのも束の間。圭子は、ここから本当の地獄を味わうことになるのである。

母親の変死。殺人容疑。釈放直後のレイプ被害。そして失明。次から次へと襲いかかる禍事(まがごと)に、圭子は体も心もボロボロになる。

拉致&暴行の描写が苛烈である。ワンボックスカーに拉致され、レイプされ、山道の脇に投げ捨てられる。力を振り絞り通過する車に助けを求めるも、誤って轢かれてしまう。

残酷で、無情で、救いのない出来事を、一気呵成に展開させることで、圭子の“落下スピード”の速さを実感させる。

盲目となっても、殺人被疑者の汚名は晴れず、圭子への執拗な嫌がらせや陰湿な攻撃は止まらない。新たな容疑者として浮上した賢治は嘱託殺人を主張するが、圭子との不倫が発覚し離婚。別れた妻は圭子に多額の賠償金を請求してくる。あらゆる拠り所を失った圭子が最後に向かったのは――。

度肝を抜くラストが待っている。前触れなしにやってくるこの瞬間の衝撃に言葉を失う。怖い映画である。

映画レビュー「光復」

光復

2021、日本

監督:深川栄洋

出演:宮澤美保、永栄正顕、クランシー京子

公開情報: 2022年12月9日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、下北沢トリウッド他 全国ロードショー

公式サイト:https://kofuku-movie.com/

コピーライト:© 2022 スタンダードフィルム

配給:スタンダードフィルム

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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