相次ぐ災難の果てに
大島圭子は母親と二人暮らしの独身女性だ。母親は重度の認知症を患っており、その世話に人生の大半を費やしてきた。
東京の大学を出て東京で働いていたが、父親が病気で要介護となり長野へ帰郷。父親を看取った後、今度は母親が発病してしまったのだ。
両親の介護で青春を棒に振った。何のために生きているのか分からない。「死にたい」。市役所の職員にもらす言葉にはリアリティがある。
そんな圭子に救いの手が差し伸べられる。母親が徘徊し、大騒ぎになった際に、再会した高校時代のボーイフレンド、横山賢治。
圭子の窮状を見かねた賢治は、昔のよしみもあり、仕事の合間を縫って圭子の家に通ってくるようになる。
ほどなく焼け木杭(ぼっくい)に火が付く。二人は介護の合間を縫って愛し合うようになった。賢治には妻子がいたが、辛酸を嘗めてきた圭子にとって、それは大した問題ではなかったろう。
明るさを取り戻した圭子。バイトに出る余裕もできた。顔つきも明るくなった。ところがある日、外出から戻った圭子を待っていたのは――。
地獄から脱け出し、ようやく人並みの幸福を味わえると思ったのも束の間。圭子は、ここから本当の地獄を味わうことになるのである。
母親の変死。殺人容疑。釈放直後のレイプ被害。そして失明。次から次へと襲いかかる禍事(まがごと)に、圭子は体も心もボロボロになる。
拉致&暴行の描写が苛烈である。ワンボックスカーに拉致され、レイプされ、山道の脇に投げ捨てられる。力を振り絞り通過する車に助けを求めるも、誤って轢かれてしまう。
残酷で、無情で、救いのない出来事を、一気呵成に展開させることで、圭子の“落下スピード”の速さを実感させる。
盲目となっても、殺人被疑者の汚名は晴れず、圭子への執拗な嫌がらせや陰湿な攻撃は止まらない。新たな容疑者として浮上した賢治は嘱託殺人を主張するが、圭子との不倫が発覚し離婚。別れた妻は圭子に多額の賠償金を請求してくる。あらゆる拠り所を失った圭子が最後に向かったのは――。
度肝を抜くラストが待っている。前触れなしにやってくるこの瞬間の衝撃に言葉を失う。怖い映画である。
光復
2021、日本
監督:深川栄洋
出演:宮澤美保、永栄正顕、クランシー京子
公開情報: 2022年12月9日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、下北沢トリウッド他 全国ロードショー
公式サイト:https://kofuku-movie.com/
コピーライト:© 2022 スタンダードフィルム
配給:スタンダードフィルム