売れるのは自分らしくない絵
売れない絵を描きながら、ごみ収集で生計を立てている榎本道雄。酒好きで気のいい中年男とペアを組み、それなりの心地よさを感じながら生きていた。
そんな道雄の前に富田サチという女性が現れる。道雄の絵が好きだと言うサチと道雄はたちまち親しくなり、デートを重ね、一緒に暮らすようになる。幸せな時間が流れていく。
だが一方で、道雄は二人の生活のために金を稼がなくてはと、焦り始める。美大時代の友人に多くの客が付き始めている。自分も画家として成功したい。
ある日、ゴミ収集所に捨てられていた抽象画が道雄の目に入る。思わず手に取ると、道雄はそのまま持ち帰ってしまう。
ほのぼのとした道雄の具象画とは対照的に、その絵には画家の激情が迸(ほとばし)っていた。道雄はその絵を自分の作品と偽り、サチの働く喫茶店に飾ってもらう。
すると、ある蒐集家が高値で購入。道雄を自宅に招き、作品を激賞する。「パワーがある。魂が描かれている」。味をしめた道雄は再びゴミ収集所へと向かい、同じ画家の絵をくすねてしまう。
しかし、やがて道雄は自力で絵を描かざるを得なくなる。本当は苦手で描きたくないタイプの絵だろう。それを無理して描く。苦しそうだ。辛そうだ。それでも、いったん獲得した評価を保つには描き続けなければならない。
道雄からやさしい笑顔が消えていく。サチが傍にいても、道雄は心ここにあらず。会話も絶える。あれほど愛おしそうに微笑み合っていた二人、じゃれ合い抱き合っていた二人が、ただの同居人のようになっていく。
描きたいものを描く道雄、やさしい絵を楽しそうに描く道雄が、サチは好きなのだった。だが、道雄は蒐集家に求められる絵を、苦しそうに描くだけの男になっていく。
そもそも道雄はサチのために売れようとしたのだった。しかし、それはサチの願いではなかったのだ。
“評価”という甘い毒に痺れ、取り返しのつかない過ちを犯してしまう道雄。そこでサチが選んだ行動は? 道雄がとった行動は?
純情で不器用な男が味わう幸福と愉悦、絶望、そして――。どこにでもいそうな平凡なカップルの恋愛を、リアルな現実の中に描き出した、ラブストーリーの傑作。
道草
2022、日本
監督:片山亨
出演:青野竜平、田中真琴、Tao、谷仲恵輔、山本晃大、大宮将司、入江崇史
公開情報: 2022年12月9日 金曜日 より、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』他 全国ロードショー
公式サイト:https://www.highendzworks.com/michikusa
配給:夢何生