“都会の村”で起きた殺人事件
2006年、広州市内の河川敷。カップルが屋外セックスに及んでいると、女性の手に蛆(うじ)の湧いた焼死体が触れる。仰天した二人は半裸姿のまま逃げ出す。第一の事件の発生である。
続くシーンは7年後の2013年へ飛ぶ。映し出されるのは、広州市の高層ビルに囲まれた谷間の再開発地区だ。ぽっかりと、そこだけ時間が止まったような“都会の村”を、カメラが空撮で俯瞰する。
その奇観に息を呑んでいると、カメラは次第に降下。今度は路上を走る若者たちの姿を、手持ちカメラが追いかける。スラム化した“村”の住民たちが、移転賠償問題で不満をたぎらせ、暴動を起こしているのだ。
開発責任者のエリート役人であるタンは、メガホンを握り住民を説得しにかかる。だが、その後、タンはビルの屋上から転落死してしまう。いったん秘書と離れた束の間の出来事だった。これが第二の事件。
事故か、自殺か、殺人か。若い刑事のヤンが捜査に乗り出す。開発事業を一手に引き受けていた企業家で、タンと親密な関係にあったジャン。タンの妻・リン。タンとリンの娘・ヌオ。ヤンはこの3人の身元を洗い始める。
大学時代にリンはジャンと付き合っていたが、既婚者であるジャンを諦め、役人で出世が約束されていたタンと結婚したこと。その後、ジャンは台湾に渡って成功し、広州に戻ってきたこと。タンはリンに対し日常的に暴行を働いたうえ、リンを精神病院に送り込んだこと。
さらに、ジャンは台湾時代にホステスだったアユンと昵懇(じっこん)になり、彼女をビジネスパートナーにしたことも分かるが、そのアユンは第一の事件が起きた2006年に謎の失踪を遂げていた。
こういった事実が、時系列に沿うのではなく、30年ほどの時代を行きつ戻りつする中で、薄皮をむくように少しずつ明らかとなっていく。
タンとリン、リンとジャン、ジャンとアユン、そしてヌオも加わった複雑な人間関係に、刑事のヤン自身も加わり、物語は終盤のクライマックスへと収斂していく。愛と野望と裏切りと復讐が絡み合った事件。その真相は、人間の業の深さを思わせる。
突如として時代が飛び、さらには、めまぐるしい速度でカットがつながれていくスタイルは、見る者にかなりの緊張を強いるだろう。時に映像は動体視力を超えもする。しかし、それは、真相を求めて東奔西走するヤン刑事の視覚を共有させるためにあえて選ばれた手法なのではないだろうか。
およそ30年にわたる中国の歴史を背景に、実在の事件をもとに作られた作品。反政府的描写に対し当局から再三の修正要求を受けたため、完成が2年遅れた。日本では2019年に東京フィルメックスで124分版が上映されたが、今回は、カット部分を復活させた129分の完全版が公開される。
シャドウプレイ【完全版】
2018、中国
監督:ロウ・イエ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン
公開情報: 2023年1月20日 金曜日 より、新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、UPLINK吉祥寺他 全国ロードショー
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/shadowplay/index.html
コピーライト:© DREAM FACTORY, Travis Wei
配給:アップリンク